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サントリーホール:大野和士指揮,都響第9の名演 [音楽時評]

12月26日,サントリーホールに,東京都交響楽団のベートーベン第9「合唱付」演奏会を聴きに行ってきました.実に素晴らしい充実した演奏会でした.

出演者は,
指揮者:   大野和士
ソプラノ:    天羽明惠
メゾソプラノ: 小山由美
テナー:    市原多朗
バリトン:     堀内康雄
合唱:     東京オペラシンガーズ
コンサートマスターは矢部達哉
でした.

プログラムは,
ブラームス:   アルト・ラプソディ  ゲーテ「冬のハルツの旅」による 作品53
      ※※※※※※※※
ベートーヴェン: 交響曲第9番 ニ短調 作品125 「合唱付」
でした.

ブラームスのアルト・ラプソディは,ブラームスが密かにプラトニックな恋心を抱いていたシューマン夫人クララの三女ユーリエが成長した段階で,ユーリエに恋心を募らせたそうですが,クララもユーリエも気づかないまま,ユーリエがマルモリート伯爵と婚約してしまい,ブラームスは深い傷心に沈んだといいます.
その傷心を,ゲーテの詩「冬のハルツの旅」の主人公の若者が,絶望の淵に苦悩しながら救いへの祈りに身を委ねる,に重ね合わせて作曲したといわれます.
三部構成で第3部には男性合唱が加わりますが,メゾソプラノの小山由美が希に見る豊かな声量で朗朗と歌い,東京オペラシンガーズの男性陣がこれも声量たっぷりに加わって,通常の第9の遅刻者対策として置かれる第1曲とは異質な,ブラームスの傑作曲の内容豊かな名演奏を聴くことが出来ました.

ベートーヴェンの年末恒例の第9「合唱付」ですが,大野和士の実力を存分に知らしめる素晴らしい名演でした.
まず,指揮者,ソリスト,合唱団の全員が,暗譜で指揮し,歌っていたのが,ステージをスッキリさせていました.
大野は身体を動かすことはほとんど無いのですが,両腕を要所要所で一杯に使って,聴衆から見ても実に分かりやすい,それでいてまことに切れ味鋭い指揮をしていました.
各パートの細かなミスはいかにも当たり前のこととして,オーケストラを実力一杯に鳴らさせていましたから,実にメリハリの効いた演奏で,歌うべきところでは存分に歌わせ,響かせるところで存分に響かせて,たいへんスケールの大きな演奏になっていました.

ソリスト4人も大野和士ならではの人選で,日本人歌手としては,最高レベルが揃った感じで,いずれも声量豊かに歌っていました.テナーは急な代役でしたが立派でしたし,バリトンの第4楽章での歌い出しは実に見事でした.また,4人が4重唱をたっぷり歌う場面でも,実力者揃いの希に見る好演でした.
東京オペラシンガーズも,さすがプロの合唱団として,男女合わせて80人くらいだったと思いますが,一杯に鳴るオーケストラと堂々と渡り合って,「合唱付」に見事なまとまりを見せていました.

とにかくこれだけのオーケストラと合唱団の豊かな音量と熱演を弾き出したのは大野和士の実力の賜物で,まったく久しぶりに聴いたベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付」の名演でした.

東京都響の第9はこれが最後の第3夜でしたから,皆様にお薦めできないのがまことに残念です.
聴衆はほぼ満席で,なかにはスタンディング・オベーションというか,立ち上がって熱心に拍手する人がちらほら目立つほどでした.

 


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