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JTアートホール:読響メンバーによるアンサンブル・メデール [音楽時評]

12月15日,JTアートホールに,読売交響楽団のメンバーによるアンサンブル・メデールを聴きに行ってきました.

メンバーは,
ヴァイオリン: 寺井 馨
ヴィオラ:    渡辺千春
チェロ:     芝村 崇
コントラバス: 石川浩之
ピアノ:     鈴木愼崇
でした.読売交響楽団のメンバー表を見ましたが,上記のなかに誰も首席クラスはいませんでした.
なお,アンサンブル「メーデレ」という固有名詞は,寺井さんのお父上の「愛でる」「芽出る」の意味を込めてカタカナ表示したモノだそうです.

プログラムは,
レイフ・ヴォーン・ウイリアムズ: ピアノ五重奏曲ハ短調
シューベルト:            ピアノ五重奏曲イ長調D667「ます」
でした.

前に,新日本フィルハーモニーの堀内麻貴さんが主宰するクァルテットをこのJTアートホールで聴いたことがあり,堀内さんから「ホールを無料で使わせて貰った」と聞いたことがありますが,この「日本オーケストラ連盟」とJTとの助成活動は,たいへん好ましいモノだと思います.

ただ,今夜の演奏会は,プログラミングと演奏水準の面で,私にはあまりいただけませんでした.

第1に,プログラミングですが,ヴォーン・ウイリアムズの「ピアノ五重奏曲(1903年作曲)」は,2度ほど改訂された後,イギリスの公式の RVW Society によりますと,
Quintet in C minor
For pianoforte, violin, viola, violoncello and double bass. Revised in 1904 and 1905. Withdrawn 1918. Main theme used in Violin Sonata of 1954. Allegro Brahmsian. Thereafter more recognisable VW.
とあり,ピアノ五重奏曲は作曲者によって,回収されており,1954年にその主題を使ったViolin Sonata が作曲されたと記録されています.
今夜のプログラムでは,ウイリアムズの最後の妻Ursula Vaughan Williams の承諾を1998年に得て,五重奏曲が公開されたとありますが,そうした記述は RVW Society の記載には見当たらないのです,Ursula はSociety の初代理事長だったのですから,故人の遺志に反したことをしたとは考えがたいのです.
BBC のRVW についての2000年代初期の放送資料を見ても, from the period between Vaughan Williams's student days at the Royal College of Music and his studies with Ravel in Paris, thirteen years when Vaughan Williams was trying to find his voice. He and his friend Gustav Holst compared notes, and works, and probably decided that these early works were second class goods, and Vaughan Williams withdrew them all - none were published. When he died, Ursula Vaughan Williams gave them to The British Library but embargoed their performance, relenting in the 1990s明確に記述されています.

なぜ,そこまで書くのかといいますと,今夜のVaughan Williams ピアノ五重奏曲はどう考えても名曲とは思えないからです.後半のシューベルトと較べていえば,いわば五重奏曲部分は全体の1/5程度で,あとはデュエット,トリオ,クァルテットになっていて,どう考えてもピアノ五重奏曲の名曲とは呼び難いモノなので,ウイリアムズが回収した判断は「さもありなん」と思えたからです.

第2に,シューベルトの「ます」の演奏は,必ずしも好演とは思えませんでした.まず,慎重すぎて第1楽章がスロー・テンポに過ぎました.また,私がよく気にするチェロがもっと澄んだ音を響かせてくれれば良かったのですが,しばしば音量でコントラバスに負けていたり,太い音を鳴らしていました.その他にも,ピアノがもっと綺麗にメロディを歌ってくれれば良いのにと思う箇所がいくつもありました.

オーケストラの楽員で,首席以上でなければ,あまり時間的余裕がないところを,良くここまで練習してこられた点は,評価したいと思います.ただし,作曲者が回収した作品を,十分に調べもせずに,読売交響楽団のメンバーと名乗って,プログラムに「名曲」と書いて演奏したことは,断じて許し難い行為だと思います.

 

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