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サントリーホール:都響定期,日本人作曲家競演 [音楽時評]

1月18日,サントリーホールに東京都交響楽団のB定期公演を聴きに行ってきました.指揮はロサンゼルス出身のヨナタン・シュトックハンマー,ピアノ・ソロに多彩な美術家としても知られた向井山朋子,チェロ・ソロに古川展生でした.

プログラムは,                                                         プーランク: 組曲「牝鹿」                                                 ダルバヴィ: ヤナーチェクの作品によるオーケストラ変奏曲                                  ※※※※※※※※                                                                             権代敦彦: ゼロ---ピアノとオーケストラのための 作品95                                  田中カレン: アーバン・フレイヤー---チェロとオーケストラのための(日本初演)                     でした.期せずして,日本人作曲家の現代曲競演になっていました.

プーランクはバレー曲『牝鹿』から作られた組曲で,第1曲「ロンドー」,第2曲「アダージェット」,第3曲「ラグ・マズルカ」,第4曲「アンダンティーノ」,第5曲「フィナーレ」が,時に軽快に,時に憂愁を帯びて,さらにはブルースを取り入れて滑らかに演奏されました.

ファルバヴィは,ヤナーチェクのピアノ曲から,管弦楽で変奏曲を作曲したモノですがですが,原曲の下降音形が多用されて,中間に大きな盛り上がりを作り,第2変奏でヤナーチェクの原曲が現われて終わります.2006年にサントリーホールの委嘱で作曲され,作曲者自身の指揮で東京フィルハーモニーによって日本初演されたそうです.

後半の権代敦彦は,先日,Carnegie Hall Japan/NYC に委嘱作品《デカセクシス》が演奏された作曲家ですが,今夜の作品「ゼロ」は,作曲者によれば,ピアノ音楽の極限を外側に拡大したものだそうです.ピアノの音は点つまり 0 ですが,その集合で時間に楔を打ち込み,エクスタシーに至る装置,そしてエクスタシーの果てのその先を見る通路として「ゼロ」があるといっています.       実体のない音楽,装置,通路の先に,”0” があるといいたいのだと思われます.           しかし,0時,消失点,グラウンド・ゼロ,∞(無限大)の5楽章構成ですが,曲はあまりよく分りませんでした.                                                       ピアノはもっぱら中央部分と両端を強調するのですが,それとオーケストラの音の連結が不明瞭なのです.不明瞭を不可思議に増幅したのは,主役のピアノと同じような音形を奏でるピアノがもう1台オケの左端にあったことです.<ピアノとオーケストラのための>というのですから,ピアノを2台並べて,4手でやればもう少し分りよかったのではないでしょうか.                       作曲は2006年で,東京で本名徹次指揮,ピアノは今夜と同じ向井山朋子で初演されたモノです.

権代よりはるかに分りよかったのはロサンゼルス在住の田中カレンの「アーバン・プレイヤー」でした.こちらは「チェロとオーケストラのための」となっていて,チェロ・ソロに都響首席の古川展生が出演して好演していました.3楽章構成で,第1楽章では,喧噪とした5拍子のオーケストラの間をチェロが縫うように祈りを歌い込み,叫び,呑み込まれ,重なり,前面に出てオケをリードする,第2楽章は瞑想で弦楽オーケストラとアルト・フルートの静寂空間にチェロが魂の祈りを奏する,第3楽章では,2台(オケのチェロ首席を加えて)のチェロによるエレジーに始まり,次第に希望に向けて変化していく,現代に生きるわれわれの祈りが希望へつながることを願って...と作曲者が書いています.  たいへん共感できる温和な曲調の作品でした.なおこの曲の初演はケント・ナガノによって2004年に行われていますが,今日が本邦初演でした.                               この曲が演奏会の締めくくりということもあって,一段と拍手が高まっていたように感じられました.  この曲は是非もう一度聴いてみたい思いです.

なお,余談に渡りますが,権代敦彦も田中カレンもいずれも演奏後ステージに上がったのですが,権代が朱色の上着でステージに上がったのには驚きました.誰よりも目立ったからですし,アンコールの度に指揮者,ソリストと並んで出てきました.そこへいくと田中カレンさんは地味な服装でステージに上がり,2度目以降はステージに現われませんでした.

 


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サントリーホール:H.グリモー充実の名演 [音楽時評]

1月17日,サントリーホールに Helene Grimaud のリサイタルを聴きに行ってきました.ネット上にいわゆる即チケの宣伝が出ていましたから,少し心配していましたが,即チケの効果もあったのか,90%程度の席は埋まっていました.

しかし,空席がいかにも勿体ないと思わせるほど,今夜の演奏はまことに高度で,凄みを感じさせる滅多に聴けないような名演でした.フランスでは,マルグリット・ロンないしコルトー以来といってよいほど素晴しいピアニストが現われたことを喜びたいと思います.                        もっとも,現在はオオカミの研究中心に New York 在住で,ピアノではフランス作品よりドイツ,東欧系の作品を多く弾いているようです.

今回の来日公演も,昨年録音したCD 曲をそのままプログラム化して,必ず1日以上の間隔をおいて東京,横浜,名古屋,神戸で5回のリサイタルという慎重な日程でしたから,きっと毎回本領を発揮できたのではないかと思います.

プログラムは, 
モーツアルト:ピアノ・ソナタ第8番 イ短調 K.310  
ベルク:    ピアノ・ソナタ Op.1   
            ※※※※※※※※  
リスト:    ピアノ・ソナタ  ロ短調     
バルトーク: ルーマニア民族舞曲 
        1.網を使った踊り, 2.飾り帯の踊り, 3.足踏みの踊り, 4.ブチュム人の踊り, 
           5.フーマニア風のポルカ, 6. 速い踊り 
でした.

彼女のピアニストとしての優れた特質は,モーツアルトで既に全開されていました.彼女の特徴は綺麗な弱音を実に巧みに使って,強い音をピアノを叩かないでも十分に大きな音と実感させる演奏のダイナミック・レンジの広さにあります.少しも無理な強打鍵がありませんから,構成が充実したこの曲全体が非常に美しく形作られたのです.                                                 モーツアルトのこの名曲を,本当に身体がゾクゾクするほど,1音,1音を大事に,メロディーにも十分な目配りをして弾いてくれました.                                             この曲はパリで書かれたといいますし,母親の死に直面した後に書かれたもので,緊迫感を持った主題と哀感を籠めた主題が繰り返す感じですが,第1楽章では前者が前面に出て,第2楽章で,後者が際立ちます.第3楽章は複雑な感情を入り混ぜた緊張感あるれる楽章で,ロンド主題が多様に変奏されてコーダを迎えます.実に見事な名演でした.

ベルクは,卒業制作だった曲ですが,第1楽章の予定がそのまま完成品にされた単一楽章のソナタ形式の曲です.提示部,展開部,再現部から構成されていますが,第1主題の音程,リズムが変奏され,第2主題で音程が拡大されて終わります.短い曲ですがグリモーは見事にこの優れた秀作を内容豊かに演奏してくれました.

リストがこの日の白眉だったと思いますが,これも単一楽章の曲で,ひとつの主題が全体を統一しており,荘重さを持って現われた第1主題が,情熱的に変化したり,展開部では叙情性で彩られて現われたり,再現部では躍動した後,沈静して曲を閉じます.
これは十分な長さを持って充実したソナタで,グリモーの多彩な演奏が光りました.

バルトークは,一時ハンガリー領だったルーマニアの民族舞曲を綴った曲ですが,プログラムに書いた6曲のそれぞれ特色ある舞曲が,節目を露わにして演奏され,フィナーレを飾るに相応しい曲の名演でした.

この演奏全体の素晴らしさにアンコールが続き,グルック:精霊の踊り,ショパン:3つの新しい練習曲へ長調と新たに2人の名曲が披露されました.

再来日が待たれる名ピアニストです.


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