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サントリーホール:H.グリモー充実の名演 [音楽時評]

1月17日,サントリーホールに Helene Grimaud のリサイタルを聴きに行ってきました.ネット上にいわゆる即チケの宣伝が出ていましたから,少し心配していましたが,即チケの効果もあったのか,90%程度の席は埋まっていました.

しかし,空席がいかにも勿体ないと思わせるほど,今夜の演奏はまことに高度で,凄みを感じさせる滅多に聴けないような名演でした.フランスでは,マルグリット・ロンないしコルトー以来といってよいほど素晴しいピアニストが現われたことを喜びたいと思います.                        もっとも,現在はオオカミの研究中心に New York 在住で,ピアノではフランス作品よりドイツ,東欧系の作品を多く弾いているようです.

今回の来日公演も,昨年録音したCD 曲をそのままプログラム化して,必ず1日以上の間隔をおいて東京,横浜,名古屋,神戸で5回のリサイタルという慎重な日程でしたから,きっと毎回本領を発揮できたのではないかと思います.

プログラムは, 
モーツアルト:ピアノ・ソナタ第8番 イ短調 K.310  
ベルク:    ピアノ・ソナタ Op.1   
            ※※※※※※※※  
リスト:    ピアノ・ソナタ  ロ短調     
バルトーク: ルーマニア民族舞曲 
        1.網を使った踊り, 2.飾り帯の踊り, 3.足踏みの踊り, 4.ブチュム人の踊り, 
           5.フーマニア風のポルカ, 6. 速い踊り 
でした.

彼女のピアニストとしての優れた特質は,モーツアルトで既に全開されていました.彼女の特徴は綺麗な弱音を実に巧みに使って,強い音をピアノを叩かないでも十分に大きな音と実感させる演奏のダイナミック・レンジの広さにあります.少しも無理な強打鍵がありませんから,構成が充実したこの曲全体が非常に美しく形作られたのです.                                                 モーツアルトのこの名曲を,本当に身体がゾクゾクするほど,1音,1音を大事に,メロディーにも十分な目配りをして弾いてくれました.                                             この曲はパリで書かれたといいますし,母親の死に直面した後に書かれたもので,緊迫感を持った主題と哀感を籠めた主題が繰り返す感じですが,第1楽章では前者が前面に出て,第2楽章で,後者が際立ちます.第3楽章は複雑な感情を入り混ぜた緊張感あるれる楽章で,ロンド主題が多様に変奏されてコーダを迎えます.実に見事な名演でした.

ベルクは,卒業制作だった曲ですが,第1楽章の予定がそのまま完成品にされた単一楽章のソナタ形式の曲です.提示部,展開部,再現部から構成されていますが,第1主題の音程,リズムが変奏され,第2主題で音程が拡大されて終わります.短い曲ですがグリモーは見事にこの優れた秀作を内容豊かに演奏してくれました.

リストがこの日の白眉だったと思いますが,これも単一楽章の曲で,ひとつの主題が全体を統一しており,荘重さを持って現われた第1主題が,情熱的に変化したり,展開部では叙情性で彩られて現われたり,再現部では躍動した後,沈静して曲を閉じます.
これは十分な長さを持って充実したソナタで,グリモーの多彩な演奏が光りました.

バルトークは,一時ハンガリー領だったルーマニアの民族舞曲を綴った曲ですが,プログラムに書いた6曲のそれぞれ特色ある舞曲が,節目を露わにして演奏され,フィナーレを飾るに相応しい曲の名演でした.

この演奏全体の素晴らしさにアンコールが続き,グルック:精霊の踊り,ショパン:3つの新しい練習曲へ長調と新たに2人の名曲が披露されました.

再来日が待たれる名ピアニストです.


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