チャイコフスキー・コンクール入賞者ガラ・コンサート

これまで何度も取り上げていますが，また神尾真由子を追っかけて，聴いてきました．

タイトルが「優勝者ガラ」ではなく「入賞者ガラ」となっているのは，1位なしの2位と1位ありの2位と2人が優勝者ではなかったからです．

曲順に出演者を挙げますと，
チャイコフスキー作曲　ロココ風の主題による変奏曲　チェロ1位　セルゲイ・アントノフ（ロシア）
チャイコフスキー作曲　ヴァイオリン協奏曲　　　　　　　ヴァイオリン1位　神尾真由子
　　　　　　　ーーーーーインターミッションーーーーー
ヴェルディ　歌劇「エルナーニ」よりアリア「私は不幸な男だ」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
チャイコフスキー　歌劇「マゼッパ」よりアリア「これが密告に対する褒美だ」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　声楽男性部門1位　バス　アレクサンドル・ツィムバリュク（ウクライナ）
チャイコフスキー　歌劇「オルレアンの少女」よりアリア「森よ，さようなら」
チレア　歌劇「アドレアーナ・ルクヴルール」よりアリア「苦い喜び，甘い苦しみ」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　声楽女性部門2位　メゾソプラノ　オレシャ・ペトロヴァ（ロシア）
チャイコフスキー作曲　ピアノ協奏曲第1番　　　　　　　ピアノ１位なしの2位　ミロスラフ・クルティシェフ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（ロシア）

アントノフはちょっと序奏の歯切れが悪かったのですが，主題から変奏に進むにつれて，演奏は明晰になり，流石にお家芸という感じで，十分な音量で弾いてくれました．

神尾真由子は，スイス在住ですっかり茶髪が板についた感じで登場しましたが，このジャパン・ツアーの演奏もこれが6回目ということもあってか，見違えるほどステージ上の動作も大きくなり，相変わらずの苦悶の表情を浮かべながら，身体を折り曲げんばかりに動かして，きわめて奔放にしかも表現力豊かに力演し，ほとんどオケを引っ張るように弾いていました．
第1楽章では2度ほど音程を狂わせましたが，そんなことはお構いなく，とりわけ低弦をがんがん鳴らしてオケを終始圧倒し，滅多に聴けないほどほぼ独演に近い名演を聴かせてくれました．

6月には有名なフランクのソナタを含むリサイタルを各地で何度かやるようですから，今からたいへん楽しみです．彼女のことですから，おそらくチャイコフスキーに飽き飽きして，このツアー中からソナタの楽譜の読み込みや練習をしているのではないでしょうか！
秋には東京でベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を聴かせてくれますから，これも大いに期待されます．
この希な才能が人間性豊かによりいっそう大きく開花することを祈ります．

ツィムバリュクは，シャリアピンの再来といってよいほど見事な声量でバスのアリアを歌いきりましたが，
相当に音域が広いようで，高い音から低い音程に移っても全然歌唱の声の質が変わらない情感豊かなバスで，希に見る才能の持ち主だと思われました．

ペトロヴァはたいへん声量は豊かなのですが，やや表現が単調で，その辺が2位にとどまった理由かと思われますが，まだまだこれから大いに伸びる人だと思われます．

クルティシェフは残念ながらピアノが合わなかったのかピアノを十分に響かせることが出来ず，神尾真由子がやったようにオケを引っ張るどころか，とりわけ第1楽章でオケとの協奏でピアノがくっきりとは浮かび上がらない箇所が目立ちました．
率直にいって，2002年にピアノ部門で優勝した上原彩子と較べて格差を感じました．

今回のガラ・コンサート・ツアーはトヨタが協賛しているようで，愛知県芸術劇場で最終回を迎えるようですが，この程度の指揮者，オーケストラなら，わざわざロシアから呼ばなくとも日本で十分に賄えると思いましたが，いかがでしょうか．今や日本は経済小国で，ロシアは経済大国なはずですが！

もっともチャイコフスキー・コンクールは資金難から開催が危ぶまれたことがあり，それを日本の音響メーカー・パイオニアが救済して開催にこぎ着けたことがあって，そのことが諏訪内晶子の優勝を巡ってあらぬ噂がたった原因になったことは周知の通りです．

今回は開催に問題はなかったようですが，この日本ツアーはいささか過剰なサービスではなかったのでしょうか．
音楽専攻者は，一部の例外を除き，大学，大学院を卒業しても，コンクールを制覇しても，翌日からタダの人になってしまうといわれます．その意味で，今回のような過剰サービス資金はそうした点をカバーするためにもっと有効な使い方を考えた方がよいのではないでしょうか．