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3月中・下旬:宮本文昭,矢野玲子,バウアー,ブレアデス,アルブレヒト他 [音楽時評]

少し間を開けてしまって申し訳ありません.
3月31日から始めますと,今日は宮本文昭のサヨナラコンサートの追加公演(最初18時から予定されていたのに,追加公演として14時から開かれた公演)に行ってきました.実は今日の午後はアルティ弦楽四重奏団のフィリアホール第2回定期公演を予定していたのが,14時からの追加サヨナラ公演を買ってしまったため,完全にダブルブッキングになったのです.しかしアルティはまだまだ聴けますが,宮本文昭はもうそのオーボエ演奏は聴けないわけですから,躊躇無く宮本文昭を聴きにトッパンホールに出かけました.
サヨナラ公演の追加公演ということもあって,プログラムも出演者紹介や惜しむ声などでいわゆるプログラムはありませんでしたから,何が演奏されたかを正確にお伝えすることは出来ません.
山洞智さんのピアノ伴奏でモーツアルトのバイオリンソナタから第1,第3楽章,そしてベートーヴェンのホルンソナタが前半に演奏され,後半は何曲かのアンコール・ピースが演奏されましたが,その中で特に印象に残ったのは「あすか」のテーマ音楽でした.
そして最期は鳥山雄司さんのオリジナル曲を鳥山さんのギター伴奏で演奏されました.
その間,宮本さんはいろいろなことを話されました.ご両親がテノール歌手とソプラノ歌手(結婚されて音楽教師)だったこと,ご両親とも当時反戦運動に参加しておられ,宮本さんも東欧圏に強い関心を持たれたこと,そして若くして1日1ドル海外旅行記に惹かれて,横浜から小樽経由でナホトカから旧ソ連に入られ,シベリア鉄道でモスクワに入って,子供達に丁度戦後の日本の子供達がやったようにガムやお菓子をせがまれて,左翼系思想にとって強いショックを受けたことなどを話されました.
ベートーヴェンは一筋縄ではいかない一徹なところがあって,何度弾いても新しい発見があること,そしてオーボエという楽器は実に難しい楽器で,天候の変化で楽器屋さんに調整して貰わないとならないこと,震動に弱くて飛行機に乗って着陸するときには膝に載せて足を浮かせていなければならないこと,それでそのケースは頭上に格納して貰わないとならないというANAのスチュワデスと函館着陸前に喧嘩したことなどかずかずの興味深いエピソードを話されました.
ともかくあの甘い嘆美な音色がもう聴けないと思うとたいへん残念です.これからは指揮者活動を展開される他,衛星デジタル放送「ミュージックバード」でレギュラーにトークショウのホスト役をやられるそうです.その指揮者振りに注目したいと思います.

プログラムのない音楽会だったので記憶の新しい内にと思って順序を逆にしましたが,日付け順に戻ると,13日に武蔵野文化小ホールでフランス在住の矢野玲子さんの素晴らしいバイオリン・ソロを聴きました.いずれも無伴奏でバッハのパルティータ第2番(終楽章がシャコンヌの有名な曲),イザイの無伴奏バイオリンソナタ作品27の4,そして後半にバルトークの無伴奏バイオリンソナタSz117というたいへん意欲的な演奏会でした.
私はこのホールとても音がよく鳴って好きなのですが,客席は暗闇にしてステージだけを皎々と明るくするのにはちょっと演奏者に気の毒に思っています.矢野さんも第1曲目の出だしで1度だけかなりはっきり音を外しましたが,これは真っ暗な客席の前に立って緊張されたからではないかと推察します.あとは音をよく響かせた完璧な演奏だったと思います.
とくにバルトークは,メニューインがアメリカに亡命したバルトークの窮状を救うべく作曲依頼したものですが,バイオリンの機能を完全には理解していなかった作曲者が自由に作曲したたいへんな難曲で,一部メニューインが修正した部分があるといわれるほどのものですが,彼女はまさに完璧な演奏を聴かせてくれました.これから日本のオケとの協演も既に予定されているようですからたいへん楽しみです.
前にも書いたと思いますが,私はヨーロッパ在住のまま時々日本に里帰り演奏されるのが音楽家にとっては非常に好ましいと考えていますが,彼女もそれを十二分に実証してくれたと思います.

15日には津田ホールのマチネーで「未来輝く才能」とアリオン音楽財団がバックした宮田大のチェロと沼澤淑音のピアノを,トッパンホールのソワレで瀬崎明日香のバイオリンを聴きました.宮田と瀬崎はいずれも日本音楽コンクールで1位をとり,留学帰りですが,宮田大は久しぶりに現れた大物日本人チェリストであることを実感しました.

瀬崎明日香はストラディバリを外国の企業から貸与されているそうですが,ドビュッシー,ラベル,メシアン,フランクのソナタのなかでメシアンの「主題と変奏」は聴衆に強く訴えかけるものがありましたが,あとの3曲の名曲は,名曲過ぎてあまり個性,独自性を感ずることが出来ませんでした.
近く千葉市でカルテットを演奏されるようですが,室内楽,とくに弦楽四重奏の領域で活躍されれば,若い世代のトップクラスに並ぶのではないかという感想を持ちました.

19日にはトーマス・E・バウアーのバリトンリサイタルを聴きに武蔵野に出かけました.開演前に風邪をひいているが最善を尽くすというアナウンスがあり心配しましたが,歌唱はまことに見事で,休憩なしでマーラーのリュッケルトによる5つの詩とシューベルトの「白鳥の歌」をたっぷりとした声で,切々と訴えかけるように歌いきってくれました.
丁度今夜のNHKハイビジョン ウィークエンド シアターで, フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮 ロイヤル・フランダース・フィルハーモニー管弦楽団のベートーヴェン全曲演奏の最後を飾る第9のバリトンに出演しているのを聴くことが出来,改めて,ドイツに現れた有望なバリトン歌手であることを認識しました.

21日にはプレアデス・ストリング・カルテットのベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会Iで,作品14-1,18-1,そして59-3「ラズモフスキー第3番」を聴きました.このカルテットは,ハレーが解散し,その主力が京都を本拠とするアルティに本拠を移してから,東京で最も期待されるカルテットだと私は評価しています.松原勝也,鈴木理恵子のバイオリン2人は,かつて新日本フィルでコンマスと,副コンマスだった逸材ですし,ヴィオラの川崎和憲はN響から現在芸大で他にもカルテットに参加している人,チェロの山崎伸子さんは今更いうまでもない名手です.
当日は鈴木理恵子さんが右足を怪我されていて,車いすでステージを出入りされていましたが,演奏にはまったく影響なく,いずれもハイレベルの名演を聴かせてくれました.

次は少し間が開いて,29日の読売交響楽団のサントリー定期でしたが,これは9年間音楽監督を務めたゲルト・アルブレヒトが読響を退任される最終演奏会で,マーラーの第9が演奏されましたが,久しぶりに聴くマーラー第9の名演でした.
実は私はもう嫌気がさしてきたNHK交響楽団と新日フィルの定期会員で,読響は久しぶりですが,もっとアルブレヒトを聴いておけば良かったと実感しました.
後任は前にも書きましたが80歳を超えたスクロバチェフスキーです.これからも数々の名演を期待できそうです.

ここで書く最後はアルミンク指揮の新日フィルによる本邦初演のドラックマンの「プリズム」とモーツアルトのレクイエムでした.アルミンクのプレトークに少し遅れたのですが,ドラックマンの曲の3楽章にはベートーヴェンのエグモントの主題が現れるのを初め,バロックから取り入れたところの多い曲だというのがこの2曲を並べた説明でした.
ドラックマンはよく分かりませんでしたが,レクイエムは昨年のアーノンクールの名演が記憶に鮮明でそれと対比するのは気の毒でしょうが,合唱のソプラノ・パートをきんきんと一杯に歌わせていたのがたいへん気になりました.日本でやると合唱団が概して大きすぎるのです.
丁度今,NHKハイビジョン ウィークエンド シアターで,コリン・デイビス指揮,ドレスデン国立歌劇場管弦楽団・合唱団の素晴らしい演奏をやっていて,アルミンクの意欲は兎も角,まだまだ未熟さを感じさせられたことを書いておきます.


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