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SuntoryHall:大野和士,東フィル,マーラー「復活」 [音楽時評]

月29日,第41回サントリー音楽賞受賞記念コンサートとして行われた,受賞者大野和士指揮の東京フィルによるマーラー「復活」演奏会を聴きに行ってきました.ソプラノ,並河寿美,アルト,坂本 朱,別に国立音楽大学,東京オペラシンガーズが合唱に加わっていました.

大野和士さんは,日本が生んだ初めての本格的,世界的指揮者といえるのではないでしょうか.小澤征爾の先例があるではないかといわれるかも知れませんが,あれは,日本の高度経済成長が生み出した「あだ花」だったというのが私の評価であることは,繰り返し書いてきた通りですし,小澤の取り巻きの小澤誇大宣伝は目に余るモノがあると考えています.

とにかく今夜の大野和士の「復活」は目を見張るモノがありました.大野は小澤のようにBody language dance はしないで,端正な姿勢を保持して,もっぱら両腕を一杯に大きく使って指揮していました.

その指揮がたいへん精妙なのです.全体をくっきりと浮き上がらせながら,細部にまでよく踏み込んだ指揮でした.マーラーのこの作品は,各楽章に文言の指示が書かれています.                                     第1楽章Allegro maestoso, 真摯で厳粛な表現をつらぬいて                                   第2楽章Andante moderato,きわめておだやかに                                          第3楽章しずかに流れるような動きをもって                                                第4楽章「原初の光」 きわめて厳粛に,ただし素朴に                                         第5楽章終曲 スケルツオのテンポで,荒野を進むように                                       と長大な5楽章構成です.

自分自身の整理のために少し書きますと,マーラーはクロプシュトックの「生きるために死ぬ」という内容の「復活」という詩に感銘を受け,その詩を第5楽章の歌唱のテキストとしたことから,「復活」の表題が付いたといわれます.
                                 
                                                                                                                    第1楽章は,交響曲第1番「巨人」に描いたある英雄の葬送行進曲になっています.ソナタ形式で,弦のトレモロを背景に現れる第1主題は,途切れ途切れで少し不可解な主題で,暗い雰囲気ですが,第2主題では一転して弦の響きが憧憬に満ちた明るさを持っています.展開部では暗い主題と明るい主題が複雑に絡み合う三部構成で,多様な楽器が活躍しますが,再現部の終結で葬送行進曲に戻り,いったん静まった後,半音階風に大きく下降して結ばれます.

楽譜の指示では第1楽章の後,数分の休憩を入れる指示があり,大野さんは指揮台前,2人のソリストの椅子の間に用意した椅子に座って,4~5分休んでいました.

第2楽章Andante moderato,きわめておだやかに,について,マーラーは次のように書いています.「英雄の過去の幸福な瞬間,青春,失われた純真さへの悲しげな回想」と書いています.舞曲風で,ゆったりとした明朗な主要主題ですが,そこはかとなく哀愁が漂います.最後は弦のカンタービレが木管に受け継がれ,消え入るように終わります.

第3楽章は,マーラーは,「第2楽章の夢から覚め,再び人生の喧噪の流れと戻る」と書いています.この楽章以降,歌曲集「子供の不思議な角笛」が色濃く反映しています.クライマックスのドラの音が静まって,そのまま第4楽章に移ります.

第4楽章で初めてアルト独唱が印象的に入ります.マーラーは「私は神からきて,神に戻っていくだろう」と書いていますが.苦しみの中にある英雄の天国への憧憬が描かれています.この歌詞は,「子供の不思議な角笛」に入っていたのですが,後に,歌曲からは削除されています.
このアルトの独唱は舞台裏のトランペットに続きますが,たいへん静寂の中にいずれも美しく響きます.トランペットは2階p席への扉を開けて,オルガンの背面から響いていました.
短い楽章ですが,英雄の悲劇的人生,解放された素朴な人生,衝動的混乱のなかの人生,そしてここで人間の死への憧憬が現れるという,構成になります.

第5楽章は,人生の終末の後,最後の審判を受けた英雄が,やがて永遠に復活する叙事詩的音楽です.全曲の40%を占める長大な音楽で,オーケストラの編成もたいへんおおきくなっています.
3部構成で,第1部が「荒野に呼ぶ者」と題されていて,多様な主題,第1~4主題が,多様な楽器で奏でられます.第2部は展開部で,第1部の主題が多面的に反復され,第3部は「偉大な呼び声」と呼ばれ,その後に無伴奏の4部合唱が静かにクロプシュトックの「復活」の賛歌を沸き上がらせます.メロディは前に出た「復活の主題」です.
室内楽的な雰囲気の中で,独唱が第4楽章の主題を歌い,再度,合唱が「復活の主題」を歌って,アウトとソプラノの二重唱が入り,その後,オルガンが加わって,管弦楽と合唱がクライマックスを作り,コーダでは第2主題に鐘の響きも加わって,力強く昇華させるように集結を迎えます.

指揮者が両腕を下ろして,ほぼすかさずブラボーが入ったのが,たいへん興ざめで残念でした.

何度聴いても感動を受ける曲ですが,的確で充実した指揮をした指揮者大野和士に大きな拍手を送りたいと思います.
今年は,大野和士が東京都響の年末第9を振るそうですから,次の楽しみにしたいと思います.


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