津田ホール:松尾コンサート [音楽時評]
2月26日,津田ホールに第18回の松尾コンサートを聴きに行ってきました.
出演者と曲目は,
クァルテット アーニマ(Vn:山崎貴子,甲斐摩耶(平田 文の代役),Va:吉田 篤,Vc:窪田 亮)
モーツアルト;弦楽四重奏曲 第14番 ト長調 KV387
アベルト弦楽四重奏団(Vn:田之倉雅秋,近藤 薫,Va:坂口弦太郎,Vc:西山健一) ドビュッシー;弦楽四重奏曲ト短調 作品10
※※※※※※※※
ウエールズ弦楽四重奏団(Vn:崎谷直人,三原久遠,Va:原 裕子,Vc:富岡廉太郎) ベートーヴェン;弦楽四重奏曲第15番 作品132
でした.
クァルテット アーニマのモーツアルトは,ハイドン・セットの第1番で中期の傑作といわれ「春」という呼び名も見られます.いきなり速いテンポで始まりますが,歌心の豊かな楽章です.第2楽章はメヌエットですが,elegant and light で, its sudden changes in dynamics in both the main theme and second subject が印象的です.第3楽章 Andante Cantabile は with many highs accompanied by deep lows from the cello. The whole movement conveys a serene, almost celestial quality, at times sounding mysterious, at others rapturous とあるように,チェロの好演が光りました.第4楽章はフーガとソナタ形式の融合型で,特に第2主題の美しさが印象的です.
第2ヴァイオリンが体調不良で交替したにもかかわらず,全体になかなかの好演だったと思います.
アベルト弦楽四重奏団は,東京芸大の出身者4人,広島響,元東フィル,にNHK響2人を加えた混成で,オーケルトラのハーモニーのなかで育っている4人がクァルテットをやる意義を強調していますが,ドビュッシーのこの唯一の弦楽四重奏曲は,第1楽章の主要主題が循環して現われる循環形式をとっており,微妙な和声を多用した曲です. それには,やはり違うオケの混成に少し問題があったようで,昨年もマツオコンサートで聴いていますが,とりわけドビュッシーのような曲の演奏には向いていなかったように思いました.
ウェールズ弦楽四重奏団を聴くのはこれで3度目くらいでしょうか,無神経に宣伝文句に使い続けているミュンヘンARD国際Competition から2人,第2ヴァイオリンとヴィオラが交替したのに,何の説明もしないのは欺瞞ではないでしょうか. 昨年のアツオコンサートと,秋にJTアートホールで聴いた感想では,旧メンバーと新メンバーの関係がまだしっくりいっておらず,その責任は旧メンバーにあると批判してきましたが,昨年からバーゼル音楽院でハーゲン弦楽四重奏団の第2ヴァイオリン,ライナー・シュミットの指導を受けていると書かれていました. 今回はシュミットの指導が浸透したのか,昨年は新メンバーをないがしろにした演奏バランスの崩壊がすごく気になったのですが,今回その点はかなり大きく改善されていました.第1ヴァイオリンもチェロもたいへん抑制されて,4人のアンサンブルに相当の神経が使われていたように思います. べートーヴェンの作品132については触れるまでもないでしょうが,この名曲が今日の楽器間のバランスの良い演奏をもたらしたといって良いのかも知れません.
これまで批判を重ねてきましたが,今回の演奏は素直にかなり良かったと思います.これを忘れずに今後いっそう精進されるように期待します.ただ,ミュンヘン後のメンバー交代をクァルテット紹介のなかに明記すべきです
コメント 0