2009日本音楽コンクール・ピアノ本選会 [音楽時評]
オペラシティに,第78回日本音楽コンクール・ピアノ本選会を聴きに行ってきました.
本選出場者とオーケストラ・バックに演奏した曲目は, 石井薗子(1984年生)東京芸術大学大学院修士課程修了,2004年フィナーレ・リグレ国際コン クール第1位, 何度かのオーケストラとの協演を経験 演奏曲=モーツアルト: ピアノ協奏曲 第26番 ニ長調 K.537 梅村知世(1988年生)東京芸術大学3年在学中,いくつかの受賞歴,オケとの演奏歴あり 演奏曲=ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 「皇帝」 op.73 中桐 望(1987年生)東京芸術大学4年在学中,いくつかの受賞歴,オケとの演奏歴あり 演奏曲=チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23 伊藤 伸(1986年生)桐朋学園大学研究科在籍,第76回日本音楽コンクール第3位 演奏曲=ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調 阿部まりあ(1988年生)上野学園大学3年在学中,いくつかの受賞歴あり 演奏曲=ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 作品43 でした.なお,バックは円光寺雅彦指揮の東京フィルハーモニー交響楽団でした.
石井薗子は,あまりに馴染み深いモールアルトを堂々と演目に選んで,なかなか清楚な好演を見せていました.ただ,本来なら小編成のオーケストラとやるところをチャイコフスキーやラヴェルをやるための規模のオーケストラ編成でやりましたから,オーケストラの音が流麗でなくって,ものずごくマイナスになっていました. もっと演奏曲目に合わせてオーケストラ編成を変える工夫をすべきだと思います.今回はあまりにも芸のないやり方で出演者が気の毒でした.
梅村知世は,大胆にもベートーヴェンの「皇帝」を演奏したのですが,未だオーケストラとの協奏経験が不足だったようで,オーケストラが鳴り終わる前に次のフレーズに入ったり,楽章の途中でかなり自己流のテンポになったり,全体にピアノのアクセントが不明瞭で,いただけませんでした. かの河村尚子が,今年になってようやくベートーヴェンの「皇帝」に挑戦しようというのですから,ぜひ聴いてみられるとよいでしょう.
中桐 望は,これも大胆にチャイコフスキーに挑戦していましたが,第1楽章の中間部でぐっとテンポが落ちて,曲の流れを崩していました.しかし,この人にはオーケストラが円光寺の指揮でピッタリ寄り添っていましたから,オーケストラに助けられて,それなりのチャイコフスキーになっていました.オーケストラのこの曲への慣れもあったのでしょう.
伊藤 伸はピアノのテクニックを顕示できるラヴェルを選んだことで得をしたのではないでしょうか.前に弾いた人のオーソドックスなチャイコフスキーよりはるかに派手で変化に富んだ曲ですし,オーケストラが嫌でもピアノに寄り添わねばならない曲でしたから,全体になかなかの好演を示して,一段と大きな拍手を受けていました.
安部まりあさんは,ラフマニノフの技巧的な「パガニーニの主題による狂詩曲」を好演していましたが,ラヴェルの後だったことでちょっと強い印象を与えられなかったのではないでしょうか.それにチヤイコフスキーとラヴェルというヘビーな大曲を経て,ピアノのチューニングに微妙なズレが生じていた感じが拭えませんでした.
私の評価は,1位伊藤 伸, 2位石井薗子,3位中桐 望,入選,梅村知世,安部まりあ でしたが,公表された結果は下記の通りでした.
1位 伊藤 伸 +聴衆賞(岩谷賞) 《野村賞、井口賞、河合賞、三宅賞》 2位 中桐 望 3位 石井園子 入選 梅村知世, 安部まりあ
来年から,ぜひ,曲に合わせたオーケストラ編成で協演するようにして欲しいモノですし,本選出場はなるべく4人に絞り,中間の20分休憩できちんとピアノのチューニングをし直すよう求めたいと思います.
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