津田ホール:ルケシーニ(pf)リサイタル [音楽時評]
9月24日,津田ホールにイタリア出身のアンドレア・ルケシーニのピアノ・リサイタルを聴きに行ってきました.平日のマチネーのせいか,あまり聴衆の入りは良くありませんでしたが,演奏は素晴しいモノでした.
プログラムは, スカルラッティ: ソナタ ニ長調 L.164 ソナタ ト長調 L.184 ソナタ イ長調 L.191 ソナタ ト長調 L.349 シューベルト: 即興曲集 op.90 1.ハ短調,2.変ホ長調,3.変ト長調,4.変イ長調
※※※※※※※※ ショパン: 24の前奏曲 1.ハ長調, 2.イ短調, 3.ト長調, 4.ホ短調, 5.ニ長調, 6.ロ短調, 7.イ長調, 8.嬰へ短調, 9.ホ長調, 10.嬰ハ短調, 11.ロ長調, 12.嬰ト短調, 13.嬰へ長調, 14.変ホ短調, 15.変ニ長調「雨だれ」, 16.変ロ短調, 17.変イ長調, 18.ヘ短調, 19.変ホ長調, 20.ハ短調, 21.変ロ長調, 22.ト短調, 23.へ長調, 24.ニ短調. でした.優に,休憩を挟んで2時間を要しました.
スカルラッティは,バッハ,ヘンデルと生年を同じくした作曲家です.ナポリ生まれで,王女と共にポルトガルからスペインのマドリッドで宮廷音楽家として活動し,鍵盤楽器用の曲を550以上残しているそうです. どの曲も長調で書かれた明るく透明な曲で,ごく端正に演奏されました.
シューベルトの即興曲は,後期のものですが,有名な歌曲集「冬の旅」と同じ年に書かれたモノです.第1曲は,連打音と美しいメロディが交錯した変奏曲で静かに曲を閉じます. 第2曲は,三連音符が連なる作品,第3曲は,彼の歌心が籠められたメロティの美しい曲,第4曲は,最初は短調のアルペジオで始まって,次第に長調に転調し,華麗に曲が閉じられます. この4曲を私はいつもブレンデルのCDで聴いているのですが,それに迫るほどの名演だったと思います.
ショパンは,24曲をいずれも調性を変えて,長調と並行短調を交互に組み合わせて,五度ずつ上行スル構成で作曲されています.それぞれが長くはないのですが,調性の変化,それに伴う音色の変化を楽しむことが出来ます.なかには「雨だれ」などのように単独で演奏される有名曲も含まれていますが,まとめて弾かれて初めて調性の変化を籠めた曲想の変化,そこに随所に現れる斬新な和声の並びを楽しむことが出来ると思いますが,今日のルケシーニはまことに鮮やかにそうした深みのある曲群を響かせてくれました.
紀尾井ホールやサントリー・ホールで聴いても十分楽しめそうな実力派だと実感しました. それと同時に,日本の中堅どころのピアニストは,同一作曲者の作品ならなおさらですが,違う作曲家の作品さえ,何か似たような感触で演奏してくれることを思い出していました. 来週は,私が次の世代で期待する河村尚子のリサイタルがあるので,同じ曲はありませんが,ショパンがいくつかあるので,ぜひ,彼女の個性を確かめたいと思っています.
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