武蔵野文化小ホール:ノヴィコフのシューベルト3曲名演 [音楽時評]
9月3日に,今週最初の音楽会で,武蔵野文化小ホールへ,ソ連出身でフィンランド在住のスラヴァ・ノヴィコフのピアノ・リサイタルに行ってきました. 今年は 日本・フィンランド修交90周年 だそうで,その一環として開催されたリサイタルです.
ノヴィコフは地味な人で,日本でCD を見つけるのも難しい人ですが,そのピアノの実力,特にシューベルトないし古典派,ロマン派前期演奏に秀でた特質は,まことに見事なモノでした.
今夜の曲目は,オール・シューベルトで, 楽興の時 D.780 より 第1曲 ハ長調, 第2曲 変イ長調 ピアノ・ソナタ 弟19番 ハ短調 D.958 ※※※※※※※※ ピアノ・ソナタ 弟21番 変ロ長調 D.960 でした.
楽興の時では,きわめて透明なタッチで,時に明るく,時に暗く,見事な色分けを示していました.
ピアノ・ソナタ弟19番では,ベートーヴェンからの独自性を発揮したといわれる第2楽章,緩徐楽章の美しい歌いがまことに綺麗に際立っていました.第3楽章で,跳躍的なフレーズと重厚な和音が対照を見せながら高揚し,第4楽章の長いフィナーレに移ります.ここではまだ,シューベルトらしさが必ずしも十分には際立っていません.
最も有名なピアノ・ソナタ第21番は,私がAlfred Brendel のCDを愛聴しているピアノ曲の一大傑作ですが,今夜のノヴィコフも,なかなか個性的に,弱音からフォルティッシモまでの幅を広くとって,右手と左手の対照も鮮明にしつつ,一面でダイナミックに,しかも歌心豊かな繊細さも維持しつつ演奏してくれました. Brendel は別格として,ここまでこのシューベルト最晩年の,歌心を豊かに散りばめた傑作を,鮮やかに弾いてくれたのノヴィコフの演奏は,希に見る名演として賞賛したいと思います.
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