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市川市行徳文化ホール:大谷康子(vn),田部京子(pf)デュオ [音楽時評]

4月26日土曜日に市川市の行徳文化ホールで開催された大谷康子と田部京子のデュオに行ってきました.

この顔ぶれのデュオは,市川市文化振興財団が作ったと宣伝していましたが,どちらかというと田部京子さんのピアノの方が聴き応えがありました.
大谷さんは東京交響楽団のソロ・コンサートミストレスですが,クワトロ・ピァチェーリ弦楽四重奏団における彼女の活発で真摯な活動には敬服しています.
でも,今日は,そうした現代曲の挑戦ではなく,場所が市川ということもあって,名曲コンサートになっていました.
聴衆を考えるとその方が客の入りがいいのでしょうが,ベートーヴェンの余りに有名なクロイツエル・ソナタの第1楽章のあとかなり盛大な拍手が入ったのにはたいへん驚きました.
もっとも,それは聴衆の責任というより,曲目しか書かず,楽章構成とそれぞれのスピード指定を明記しなかった田舎並みでお座なりのプログラムに責任があったと思います.

プログラムは,休憩前がヴァイオリン・ソロで,
クライスラーの「愛の喜び」
エルガーの 「愛の挨拶」
ベートーヴェンの「クロイツエル・ソナタ.
休憩後
ピアノ・ソロで
シューマンの「子供の情景」からトロイメライ
シューベルトの即興曲op.142--3
グリーグの「ペールギュント」第1組曲から,朝,おーぜの死,アニトラの踊り,山の魔王の宮殿にて,
再びヴァイオリン・ソロになって,
ベートーヴェンのロマンス,
サラサーテのチゴイネルワイゼン
でした.
そしてアンコールにモンティのチャルダッシュを大谷さんがピアノの序奏のあと,左横扉から現れて,客席前後の通路を演奏しながら通り抜けて,右手からステージに上がって,曲を弾き終わるという演出を見せてくれました.

前橋 汀子ほどの大家ならサントリー・ホールで同様の曲目を並べてもチケット完売になるでしょうが,それと同じように市川でリサイタルをやるならこんなポピュラーな曲を並べても約650席のホールが満席にできないということなのでしょうか.

今日たいへん堪能したのは,田部京子のシューベルトの即興曲とグリーグのペルギュント組曲からの4曲でした.
大谷さんもたいへん好演していましたが,クロイツエルは聴き慣れているせいか今一つもの足りませんでした.それでも
1708年製のグァルネリがたいへん柔らかで美しいい音を響かせていました.
大谷さんは今年の9月20日にはサントリーホールでリサイタルをやられるそうです.

ここで音楽産業と公共団体の市川市における現状の問題点を取り上げたいと思います.
この音楽会を主催したのは,市川市文化振興財団ですが,これは市が作った財団で,市川の八幡と行徳に大ホールと中規模ホールを持っており,市川に文化遺産的邸宅や記念館をいくつか持っています.
大ホールはJR総武線八幡駅から徒歩10分,行徳文化ホールは東西線行徳駅から徒歩5分と前者がやや交通不便です.

この両方とも貸ホール主体で,自主的なクラシック公演は,八幡の大ホールが年2回程度オーケストラ公演,今年は飯村泰次郎指揮の東京シティフィルと若杉弘指揮の東京交響楽団です.昨年まではNHK交響楽団が年に1回来ていましたが,もっぱら副指揮者岩村力の指揮によるものでした.
中規模の行徳では今年は今回に加えて,数年前の日本音楽コンクール優勝者松田理奈さんのヴァイオリン・リサイタル,あと8月にドイツ在住のチェンバロ奏者を迎えたリコーダートとソプラノを交えた「午後のバロック」くらいです.今後まだ入る余地はありますが...

この財団の事業で私がまったく無駄だと思っている事業は,「新人演奏会」という一種のコンクールです.
同じような事業をやっている文化財団は他の地方自治体にも見られます.東京,仙台,大阪(将来が危ぶまれる),浜松などありますが,これらは国際的な参加者をも惹きつけるだけの魅力を持っており,優勝者はそのプロフィールに入賞歴を誇示するほどに定着しています.

しかし,市川市の場合,昨年の最優秀者(vn)は毎日新聞,NHK共催で多くの現役ソリストを輩出している日本音楽コンクールを3次予選落ちした,しかも隣接市在住の東京芸大3年生です.
昨年の日本音楽コンクールのヴァイオリンの本選出場者4人中3人までが高校生だったこと,優勝者長尾春花さんは高校3年生で,しかも2位なしのトップだったことを考えると,市川市如きがこうした新人演奏会をやっても,その最優秀者はほとんど新人ソリストとしての将来は期待できないでしょうし,もしそうなったとしても,市川市新人演奏会最優秀賞などというのはプロフィールに載せられることはないでしょう.
若手優秀演奏家に出演の機会を与えるというのがこの事業の謳い文句ですが,市川市では最優秀者に大ホールでも,中ホールでもコンサートなど開いてあげていないのです.もちろん開いても聴衆の入りは保障の限りでないでしょう.

今日の演奏会の出演者の2人ともこの「新人演奏会」の審査員だそうで,そうしたコネもあって,この2人のコンビは,財団の室内楽シリーズのこれまでの6回中4回出演しているそうです.

コンクールで優勝してもタダの人というのは,有名国際コンクールの優勝者についても当てはまるこの時代に,市川市初め中規模地方自治体レベルで競い合ってこうした催しをすることは,まったく無駄なことだと信ずるものです.そんな経費を使うのであれば,むしろ有名コンクール優勝者に大ホールでオーケストラをバックに演奏する機会を与えた方が,はるかに有益ではないでしょうか.

もう1点より重大な問題として,このホールが築後浅い年月のうちに多目的ホールに改装されてしまったことを指摘しておかなければなりません.私は今回が2度目だったのですが,改装点の
第1は,ステージが,かなり大きな小中学校のブラスバンドが乗れるように,2メートルほど前に張り出していました.この設計時にはなかった張り出し部分に演奏者が立つと,2階席の聴衆には演奏者の全身の一部分しか見えなくなるのです.また,ピアノはオリジナルなステージの中央前方部分に置かないと音響の響きが最良ではなくなるということで苦労があるようです.
第2に,そのためもあってか,1階席前方の平面部分が削減されたばかりか,平面部分の固定席が取り外されて,代わりに折りたたみ椅子が並べられていて,傾斜がついた後方席との間に,座席の座り心地に格差が生じていました.

最初の音響効果を考えた設計から,勝手にこうした改装を加えたのでは,もう決して1流のクラシック奏者にお奨めできる音楽ホールではなくなってしまった印象を受けました.
地方公共団体の箱物作りは,所詮,多目的化に向かいやすいのでしょうが,せっかく作られたものにまでこうした改装をして憚らないのは,まことに嘆かわしい限りです.
それでもなおそこにしがみついて離れない音楽産業が存在することを,われわれはいったいどう受け止めたらよいのでしょうか!!

ご意見をお寄せいただければ幸いです.


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