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プロジェクトQ・第5章「若いクァルテット,ベートーヴェンに挑戦する」 [音楽時評]

2月2日土曜日の午後13時からと18時からのダブルヘッダーで紀尾井ホール小ホールに行ってきました.
6つの若いクァルテットがベートーヴェンの作品18-1~6 までのクァルテット・セットを聴かせてくれたのです.なかなか聴き応えがありました.
曲の解説がすべて演奏クアルテット自身によって書かれていたのがたいへん良かったと思います.

作品18-1は桐朋学園大学グループが結成したラジッド・クァルテットがトップ・バッターで弾いてくれました.ラジッドは凸凹を意味するそうで,第1ヴァイオリンの女性1人と男性3人が並ぶと身長差が目立つので,そう命名したということです.
昨年のプロジェクトにも参加したそうで,演奏は練習を重ねて非常によくアンサンブルを整えての出演でしたが,聴き手が残響の少ない,決してクァルテット向きでないホールに慣れるまでに時間がかかり,少し音量が不足して聞こえてしまいました.でも,第2楽章が「ロメオとジュリエット」の墓場シーンを描写したと伝えられているように悲劇的なのを別にして,全体に長調で書かれた明るい曲を,非常に鮮明なアンサンブルで力演してくれました.低弦もバランス良く鳴っていました.

作品18-2は東京芸術大学グループのクァルテット・シュテッフル(ウイーンのシンボル,シュテファン大聖堂の愛称から命名)女性4人の演奏でした.この作品は「挨拶」と別名があるとおり,陽気で社交的な性格を持っていますが,全体を通して楽器間の対話的な性質が強いという点でやや難しさがあります.解説に,いろいろ聞いてみて,またマスター・クラスでも,テンポに定番がなく悩んだと書いてありましたが,割と聞き慣れたテンポでした.ただ,ちょっとチェロが聞こえづらかったのが残念に思われました.

作品18-3は相愛大学在学中のグループ,ファミーユ・クァルテット(家族から命名)で,女性3人でした.作品18のなかで明るさが際だち,希望や幸福感に溢れた,作曲者の若さを感じさせる曲ですが,なかなか見事なアンサンブルで,明るい曲を盛り上げた後,綺麗な形で,静かな締めくくりを聴かせてくれました.

マチネーとソワレを通じて最高の出来は,作品18-4だったと思います.
桐朋学園大学出身者のウエールズ(Verus)・クァルテット,男性4人ですが,ベートーヴェンのオリジナルなテンポ指定に従って,聴いたことのないスピードで弾いてくれたのです.
私は前にテンポの速い第9交響曲「合唱」が最近ヨーロッパで主流になっていると書きましたが,それをクァルテットでやってくれたのです.その効果はすごい緊迫感でした.
ただ,惜しむらくは,彼らは第2楽章と第3楽章の間でチューニングをやったのです.激しい演奏で調弦が気になったのは分りますが,これがせっかくの緊迫感をかなり台無しにしました.ヨーロッパのクァルテットはほとんど曲の途中で全体がチューニングすることはないのです.

作品18-5は,東京音楽大学のグループ,ヒプノティック・クァルテットで,女性3人,チェロが男性でした.
既に初リサイタルをやったことがあるそうです.この作品は,重心が後半にかかって,6曲のなかでもっとも難しいのだそうですが,親しみやすさ,平和さ,軽やかさなど,グループが描き出したかった諸点を見事に伝える好演でした.しかし,このグループの責任ではないのですが,前のクァルテットの緊迫感溢れる演奏の直後だったため,前半にかなり間延びした感じを受けたことは否めません.

作品18-6は,東京芸術大学3年生による女性グループ,ステラ・クァルテットでしたが,この明るさ,爽やかさを持った曲に,第4楽章で「ラ・マリンコリア(憂鬱)」と題された長い序奏があり,聴力の衰えへの深刻な不安を暗示しているといわれます.この曲を,まだ若いグループが,他のグループを凌ぐキャリアを積んでいるようですが,ここでも着実な練習の成果を示して好演してくれました.確かJTアートホールでステラを1度聴いたことがあるのですが,その時とは格段の進歩を見せてくれました.若さから来る進歩の早さにたいへん感心しました.

どのグループも今後の成長を心から期待したいと思います.


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