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サントリーホール:都響B定期下野指揮館野pf [音楽時評]

8月28日,サントリーホールに東京都交響楽団B定期演奏会を聴きに行って来ました.
タイトルには指揮下野龍也と書きましたが,第1曲目のケージの曲は,オーケストラを4群に分けて演奏するので,指揮者は下野を含めて4人でした.他の3人は,
大河内雅彦:東京芸大卒,上野学園講師
松村秀明   洗足学園卒,新日鐵文化財団の指揮研究員
沖澤のどか 東京藝大学指揮科卒,同大学院音楽研究科在籍
でした.

プログラムは,
ケージ: エトセトラ2(4群のオーケストラのための)
      ※※※※※※※※
一柳慧: ピアノ協奏曲第5番「フィンランド」-左手のための(初演)
一柳慧: 交響曲第8番「リヴェレーション2011」 (管弦楽版初演)
でした.

ケージの曲は,たいへん個性的で,4群のオーケストラが,入れ替わり立ち代りトッティを鳴らすのですが,ステージ上では,平服の楽員が前後4つずつの空席に入れ替わり立ち替わり4群から移動したり戻ったりするのがプラス・アルファの感じで,約30分を興味深く聴かせました.
サントリーホール開館に当たって委嘱された作品で,20年振りの再演だったそうです.

一柳慧の左手のためのピアノ協奏曲は,プログラムの記事では,最近2度フィンランドの音楽祭に招かれたこと,そして,フィンランド在住の館野泉さんに触発されて作曲したモノだそうです,
ほとんど現代音楽とは呼べないクラシックな作品でしたが,ピアノが淡淡と緩ー急の2楽章を弾き進むうちに,オーケストラがトッティでかぶると,ピアノが聴こえなくなるのがたいへん気になりました.

交響曲第8番は,昨年の東日本大震災の経験から,日本の復興の将来に向けて書かれた黙示録だそうです.4つのセクションが続けて演奏されましたが,4つは,「予兆」「無情」「祈り」「再生」と題されています.しかし,基調として,循環と無常がイメージ形成の要になっていると説明されています.
オーケストラは下野さんの指揮で好演していましたが,いまひとつ液状化の被害を被った私にはピント来ない作品でした.
とくに福島の原発事故がカラ菅を初めとする無知から生じた人災であったことは,政府,国会,民間などの事故調査委員会報告を読んでいたら理解できたはずですが,再生には何10年とかかるでしょう.それを考えただけでも,これは救いようのない作品でした.
遅ればせながら,ここから大ブーイングを送ります.


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シャネル:谷口洸ヴァイオリン・リサイタル [音楽時評]

8月25日,銀座シャネルにCHANEL Pigmarion Days コンサートを聴きに行って来ました.幸い抽選に当たったのです.

出演はヴァイオリンの谷口 洸(1984年生まれ),ピアノ伴奏に永野光太郎(1988年生まれ)でした.
谷口 洸は昨年11月に同じシャネルで聴いて,フランクの有名なヴァイオリン・ソナタの演奏に物足りなさを感じた記憶があります.

プログラムは,
ファリア(コハンスキー編曲);   スペイン民謡組曲より
                     「ムーア人の織物」「ナナ」「カンシオン」「ポロ」
                     「アストイーリア地方の歌」「ホタ」 
ドビュッシー(ハイフェッツ編曲):ゴリウォッグのケークウォーク
ドビュッシー:                        ヴァイオリン・ソナタ
サラサーテ:             ザパテアド
サラサーテ:             ツイゴイネルワイゼン
でした, 

配布されたプログラムが不完全だったので,2曲ほどは私の推測です.お気づきの点がありましたらコメントでご教示下さい.

谷口洸は,モスクワ・グネシン音楽学校,アメリカのイーストマン音楽院,ジュリアード音楽院修士課程修了,アスペンその他の音楽祭のアカデミーに参加,以後,いくつかのオーケストラの奏者として参加して来たそうです.

全体として,なかなか艶やかな音で,音楽を聴かせてくれました.ドビュッシーは生誕150年記念で力点を置いて,特にソナタをなかなか綺麗に纏めていました.

ただ,最近は,アジアのヴァイオリニストは多士済々ですから,日本といわず欧米でも,どこかのオーケストラの首席なりフォア・シュピーラーの席を確保して活躍して欲しいモノだとと思いました.         


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JTアートホール:アフィニス夏の音楽祭東京公演 [音楽時評]

8月24日,山形県で開かれているアフィニス夏の音楽祭の東京公演を聴きに,JTアートホールに行って来ました.
アフィニス夏の音楽祭は,四方恭子さんが音楽監督で,20もの日本のオーケストラ団員の参加を得,かつ海外からの選りすぐりの名手の出演も得て,オーケストラ公演と室内楽公演を聴かせているモノです.

今回の東京公演の特色は,JTアートホールでは珍しい金管楽器の演奏がふんだんに聴けたことです.

プログラムと演奏者は,
ベートーヴェン: ピアノ五重奏曲 変ホ長調 Op.16
                         Ob;斉藤真美,Cl;ヨハネス・バイツ,Fg:田邊武士
              Hr;アブ・コスター,Pf;村田千佳.
コルンゴルド:   弦楽六重奏曲 ニ長調 Op.10
                          Vn1;久保木隆文,Vn2;蔵川留美,Va1;ポール・ペシュティ 
                          Va2;佐藤裕子,Vc1;大内麻央,Vc2;樋口泰世
        ※※※※※※※※
バッハ:       プレリュードとフーガ ハ短調(D.Taylor編曲・金管五重奏版)
              Tp1;オマール・トマゾーニ,Tp2;亀島克敏,Hr;林伸行
              Trb;ロジャー・フラット,Tub;喜名 雅
クレスポ:      組曲「アメリカーナ」第1番(抜粋4曲) 
                          Ragtime, Bossa Nova, Vals Peruano, Son de Mexico
              Tp1;オマール・トマゾーニ,Tp2;亀島克敏,Hr;林伸行
               Trb;ロジャー・フラット,Tub;喜名 雅  
でした.

最初のベートーヴェンは,馴染みのメロディが現れますが,オーボエ,クラリネット,ファゴット,ホルンにピアノという組み合わせで,とにかくその合奏の妙に感嘆しました.

コルンゴルドはオーストリアの後にアメリカに渡っていますが,未だ若い頃,ブラームスの同一楽器編成の曲を基礎にして書かれた作品だそうで,ロマン的な作品です.たいへん美しい曲が好演されました.

後のバッハ(Taylor編曲)とクレスポの2曲は,ただただ金管楽器の輝きに圧倒されて聴いていました.

アフィニス夏の音楽祭東京公演が,こうした珍しい楽器の組み合わせを聴かせてくれたことに,心から敬意を表したいと思います.ただ,聴衆が満席ではなかったことが惜しまれます.

 


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Mostly Mozart Festival in reorganized Avery Fissher Hall [音楽時評]

このところ欧米ではSummer Festival 続きで,あまり話題を提供できなかったのですが,日本でも10年間くらいは行われてご記憶の方も多いと思われる The Mostly Mozart Festivalにかかわって,たいへん興味深い記事に出会いました.

The Mostly Mozart Festival の会場の Avery Fissher Hall はNew York Philharmonic の定期演奏会場でもあるのですが,そのshoe box 型で,4階建て,2698人収容というのが,音響の点でとりわけ Mostly Morzart で取り上げられるバロックや古典派音楽には不向きで知られていました.

ところが今年は一工夫して,ステージを前に出して,その両脇と後方にも客席を作って,2500人くらいの収容力は維持して,Bach, Mozart and Mendelssohn にはたいへん好ましい音響を提供したというのです.
これは日本でも余りに細長すぎるオペラ・シティなどでも応用出来るのではないかと考えられますから,ご紹介させて頂きます.

There are many reasons to like Lincoln Center’s Mostly Mozart Festival. But one of the best is its subtle yet crucial transformation of the chronically woeful Avery Fisher Hall, the home base of the festival’s orchestra, which played a program of Bach, Mendelssohn and Mozart on Tuesday evening, led by Andrew Manze, making his festival debut.

The intimacy of Baroque and classical music, which makes up most of the ensemble’s summer repertory, projects in the big shoe box of Avery Fisher only with difficulty. So Mostly Mozart cleverly pulls the stage closer to most of the audience, adding a few rows of seating on either side of it and a large section behind.

The result is far more immersive than usual for the hall, an experience closer to that of Walt Disney Concert Hall in Los Angeles and other great music spaces of the 21st century. It is a rough model for what Avery Fisher could be after its long hoped for, perpetually deferred renovation.

ここでは,長年待ち望まれてきたAvery Fisher Hall の改装のおおよそのモデルになるとまで述べています.

プログラムは,
Bach’s Orchestral Suite No. 3
Mendelssohn’s Piano Concerto No. 1 in G minor Stephen Hough played the solo part
Mozart’s Jupiter Symphony
だったようです.

In Mozart’s Jupiter Symphony the orchestra was focused and bright. In the fourth movement there is an unexpected series of crazily chromatic chords; but in this performance, given the vibrancy of what had preceded it, it seemed utterly natural. The audience was ready for anything under Mr. Manze’s exciting direction.

と,ジュピター交響曲の終楽章で音をミスった点についても,in this performance, given the vibrancy of what had preceded it, it seemed utterly natural. と音をミスったことまで,許容範囲だとして,演奏会の好演を評価しています.

 

 

Music Review

Melodies, Immersive and Vibrant

Mostly Mozart Festival with Stephen Hough and Andrew Manze

There are many reasons to like Lincoln Center’s Mostly Mozart Festival. But one of the best is its subtle yet crucial transformation of the chronically woeful Avery Fisher Hall, the home base of the festival’s orchestra, which played a program of Bach, Mendelssohn and Mozart on Tuesday evening, led by Andrew Manze, making his festival debut.

Ruby Washington/The New York Times
Intimate encounter: Andrew Manze leading the Mostly Mozart orchestra in his festival debut Tuesday night at Lincoln Center’s Avery Fisher Hall.

The intimacy of Baroque and classical music, which makes up most of the ensemble’s summer repertory, projects in the big shoe box of Avery Fisher only with difficulty. So Mostly Mozart cleverly pulls the stage closer to most of the audience, adding a few rows of seating on either side of it and a large section behind.

The result is far more immersive than usual for the hall, an experience closer to that of Walt Disney Concert Hall in Los Angeles and other great music spaces of the 21st century. It is a rough model for what Avery Fisher could be after its long hoped for, perpetually deferred renovation.

The festival orchestra and its music director, Louis Langrée, have responded to this setup with playing of polish and flair in recent seasons. On Tuesday the performance was shining and tight, responsive and lively but never exaggerated.

Bach’s Orchestral Suite No. 3 in D featured coppery solos from the concertmaster, Ruggero Allifranchini, including in the famous Air. In the fourth-movement Bourrée, Mr. Manze brought out the dotted rhythm in the winds that lies under the flowing passagework in the upper strings, one of many occasions when he emphasized inner lines without distorting the larger phrases.

Stephen Hough played the solo part in Mendelssohn’s Piano Concerto No. 1 in G minor with intensity in its virtuosic passages and a willingness to restrain his sound within the orchestral textures.

In the first movement the pianist has a short duet of sorts with the cello section, then plays a series of grand chords before repeating the melody alone. Mr. Hough handled the chords with strength and delicacy, as if gently moving the cellos aside.

At a preconcert recital he played the New York premiere of his own 2010 “Sonata for Piano (broken branches).” A pianist-composer is nothing new, but Mr. Hough is also part of a generation of artists schooled in social media; he is active on Twitter and writes a clever, illuminating blog on the Web site of The Daily Telegraph. (There, in a characteristically witty and true moment, he recently described Ravel’s “immaculately tailored suits, his fastidious cleanliness repelling intimacy — the love that dare not tweak his mane.”)

In Mozart’s Jupiter Symphony the orchestra was focused and bright. In the fourth movement there is an unexpected series of crazily chromatic chords; but in this performance, given the vibrancy of what had preceded it, it seemed utterly natural. The audience was ready for anything under Mr. Manze’s exciting direction.


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フエスタ・ミューザ川崎2012東京交響楽団,指揮ウルバンスキー,アブドゥライモフ(p)の名演 [音楽時評]

今日は川崎の昭和音大テアトロ・ジーリオ・ショウワへフエスタ・ミューザ川崎2012フィナーレ公演を聴きに行って来ました.
先日の新日フィル,山田和樹の物足りなさを吹き飛ばすような,今年一番の名演を聴くことが出来ました.

指揮のクシシュトフ・ウルバンスキーは1982年ポーランド生まれ(山田和樹は1979年生まれ),ヨーロッパの有名オーケストラ(ベルリン・フィルに2014年5月予定)から次々に招かれている俊英で,来年4月から東京交響楽団の首席客演指揮者に就任予定だそうです.

ピアノのベフゾド・アブドゥライモフは1990年ウズベキスタン生まれ(22歳でしょうか),2009年にロンドン国際ピアノ・コンクール第1位という入賞歴の持ち主です.

プログラムは,ミューザ・フイナーレに相応しく,名曲それも大曲2曲で,
チャイコフスキー: ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23
      ※※※※※※※※
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 ニ短調 作品47
でした.

チャイコフスキーの協奏曲は,最初,ルビンシュタインに草稿を送りアドヴァイスを求めたそうですが,貧弱な作品で演奏不可能であると酷評されたので,代わって,ピアニスト・指揮者のハンス・フォン・ビューローへ献呈され,そのピアノ協奏でアメリカ,ボストンで初演されています.
ロシアでは,サンクト・ペテルブルグに続いて,モスクワで,ルビンシテイン指揮、セルゲイ・タネーエフのピアノによって演奏され,その後は,ルビンシュタインの重要レパートリーになったといいます.
ただ,曲は,1879年の夏および1888年の12月に2度にわたって改訂されています.
Allegro non troppo e molto maestoso - Allegro con spirito/Andantino semplice - Prestissimo - Quasi Andante/Allegro con fuoco の3楽章構成です.第1楽章冒頭の壮麗な序奏は,その後2度と再登場することはなく,ベートーヴェンの「皇帝」協奏曲に類似しています.第2楽章は簡素なアンダンテで始まりますが,むしろテンポを早めた中間部でピアノの高い技巧が発揮されています.第3楽章では,第1楽章序奏のテンポが,この中間部で再現されコーダに至るので,曲に一体感が高められて終わります.
とにかく構成感豊かな演奏で,たいへんな好演でした.
アブドゥライモフは3度目にステージに戻ったときに,アンコールにゆったりした鮮麗なメロディを奏でてくれましたが,曲名は分かりませんでした.

とにかく驚くほど緻密な演奏が展開されて聴衆を感動させたのがショスターヴィチの第5交響曲でした.この曲は比較的良く聴く曲ですが,私が名演として記憶しているのが,アシュケナージ指揮フィルハーモニア菅のLondon Royal Festival Hall での演奏ですが,今日のウルバンスキーの指揮はそれに迫るまことに見事な演奏でした.
Moderato - Allegro non troppo/Allegretto/Largo/Allegro non troppo の4楽章構成です.一見,緩-急-緩-急の構成ですが,各楽章が複雑な表情を交差させながら,調性の変化やリズム,テンポの変化など,表の顔と裏の顔など入り組んだ構成になっています.

スターリン体制に強く批判され,それに応えて書いた曲ですが,初演時には,フィナーレの途中から興奮した観客が自然に立ち上がり、終わると猛烈なスタンディングオベーションとなり、「荒れ狂ったような喝采を送り,みな、次のようなフレーズを繰り返したといいます.『(プレッシャーに)答えた。立派に答えた.』 ショスタコーヴィッチは下唇を噛みながら舞台に現れましたたが,泣いているかのようであった」(シャポーリン夫人)と証言されたような騒ぎとなり,かえって体制への抗議活動と見なされることを恐れた関係者の機転で、作曲者は裏口から脱出したといいます.
しかし,体制側はむしろこの作品を歓迎し、ショスタコーヴィチは体制下で生き延びることになったのだといわれます.

そうした背景を持った曲ですが,古典的なスタイルで書かれたこともあって,比較的,理解しやすい曲で,とくに終楽章では行進曲風のリズムに乗って,爆発的なエネルギーが解放されて壮麗に曲を閉じます.

この曲のテンポ指定については議論が分かれているのですが,ウルバンスキーは.かなりハッキリと緩-急-緩-急のテンポで,各楽章ごとにメリハリをハッキリと付けて,たいへん緻密なしかし分かりやすい指揮をしていました.小澤征爾のようなボディ・ランゲージは一切とらず,両腕だけの指揮で,とくに左腕の管楽器,打楽器への細かな指示は聴衆からもそれと分かりやすいモノでした.
全般に,多少音程が狂うことなど恐れずに,打楽器,金管楽器,木管楽器と五弦を見事なまでに良く鳴らさせてバランスを改善し,全体のバランスの上にオケを一杯に鳴らしていたのが印象的でした.コントラバスとチェロが滅多に聴かないほど精一杯の音を出して,五弦のバランスを支え,それによって五弦と金管,木管,打楽器のバランスがきわめて良く整えられていたのです.
それはとりわけ終楽章の高揚する部分で一段と際立っており,見事なフィナーレを作り出していました.

この若さで良くここまでと思わせる見事な指揮だったことを強調しておきたいと思います.

幸い,来年からは首席客演指揮者に就任するそうですから,また若々しい彼を聴けるのが大いに楽しみです.

 

 


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トリフォニーホール:新日フィル「扉」.山田和樹,荻原麻未(p) [音楽時評]

8月10日,久しぶりに新日本フィルハーモニーの「新クラシックの扉」を聴きに行って来ました.指揮が山田和樹で,ピアノに荻原麻未が出演していたからです.

なお,コンマスは崔文洙,オルガンに室住素子でした.

プログラムは,
ラヴェル:     亡き王女のためのパバーヌ
ラヴェル:        ピアノ協奏曲 ト長調
    ※※※※※※※※
サン=サーンス: 交響曲第3番 ハ短調「オルガン付」
でした.

「亡き王女のためのパバーヌ」は,ラヴェルがルーヴル美術館を訪れた時にあった、17世紀スペインの宮廷画家ディエゴ・ベラスケスが描いたマルガリータ王女の肖像画からインスピレーションを得て作曲したといわれます,「亡き王女」は韻律上の表現で,特定の人物を指すものではないそうです.最初ピアノ曲として作曲され,翌年にはオーケストレーションされたそうです.
比較的小編成で,冒頭で,弦楽器のピッチカートに乗り、ホルンのソロでロンド主題が提示されるのですが,ここでホルンが音を外していたので,この短いけれど旋律美を持って最弱音で終わる曲は楽しめませんでした.
山田和樹の指揮は明快で,構成もしっかりしていました.

ピアノ交響曲は,最晩年に左手のためのピアノ協奏曲と平行して作曲され,有名なピアニスト,マルグリット・ロンのピアノ,指揮ラヴェルで1932年に初演され,好評を博したといいます,
とりわけ20世紀初頭に流行したジャズの影響を強く受けています.
Allegramente/Adagio assai/Prestoの3楽章構成です.冒頭のピアノが提示するアルペジオの繰り返しがジャズに似て印象的です.ピアノのカデンツァに先立ちハープ・木管楽器によるカデンツァが挿入されている点もユニークです.第2楽章では冒頭にピアノの独奏が入ってユニークですし,中間で,コールアングレとピアノが美しい旋律で対話するところも魅力的です.終楽章は,再び,ジャズの雰囲気に近づいて,華やかに曲を終えます.
なかなかの好演だったと思いますが,アンコールで予想外のことが起こりました,山田和樹が3度目のアンコールまで指揮台近くに残っていて,2度目にソリストがアンコールから引っ込んだ後,山田和樹が次々と楽団員を指さして立たせて拍手を受けさせ,それを一通り終えてから,指揮台近くからソリストを手招きしたのです.
こんな光景を見たのは初めてでした,いくら自分が先輩であったにせよ,ソリストをソリストとして敬意を表しないこと,聴衆のアンコールはソリストを呼んでいるのに,山田和樹が勝手に楽団員に拍手を割り振ったことは,ソリストに対する最低のステージ・マナーだったと思います.
20世紀から五嶋みどり始め10歳前後で初協演するソリストが大きく増えているのです.山田和樹のような最低のマナーに出会ったら,10代のソリストは傷つくでしょう.

サン=サーンスの交響曲第3番は,オルガンを含めてなかなかメリハリの効いた好演だったと思います.しかし,その後がやはり頂けませんでした.
山田和樹は打楽器,金管,木管の順に全員を順番に立たせ,最後に五弦をコントラバスから順番に次々と一斉に立たせて拍手を受けさせたのです,
遠来の楽団でもない月例の「新・クラシックの扉」なのですから,2,3の人を別にして後は一斉に立たせれば良いので,なんでこんなことをするのだろうと呆気にとられました.

昨日のブログで書いた Yannick Nézet-Séguinが,born 6 March 1975 in Montréal, Québec, Canada で今秋からPhiladelphia 菅のMusic Director ですが,1979年生まれの山田和樹は,今秋から経営にPhiladelphia と類似した問題を抱えた日本フィルの正指揮者に就任予定です.スイス・ロマンド菅の首席客演指揮者に決まっていますが,昨日のブログに引用したYannick Nézet-Séguin の他を圧する個性に近いものは,今日の山田和樹からはほとんど感じられなかったことを付言して終わりたいと思います.

10月には,同じ新日フィルを,ヨーロッパの下積みから着実に向上した上岡敏之が振るのを聴く予定をしていますから,その日をいっそう楽しみにしたいと思います.

なお,山田和樹で気になって,ブザンソン国際指揮者コンクールについて,日本人以外にはあまりプロフィールに掲げているのを聞かないので,主要歴代優勝者を列記してみました.

  • 小澤征爾 (1959年、第9回)
  • ミシェル・プラッソン (1962年、第12回)
  • ズデニェク・マーカル (1965年、第15回)
  • ヘスス・ロペス=コボスフィリップ・ベンダー (1968年、第18回)
  • シルヴァン・カンブルラン (1974年、第24回)
  • ヨエル・レヴィ (1978年、第28回)ミシェル・プラッソン (1962年、第12回)
  • 松尾葉子 (1982年、第32回)
  • ヴォルフガング・デルナー (1984年、第34回)
  • 呂紹嘉 (1988年、第38回)
  • クリストファー・ゲイフォード佐渡裕 (1989年、第39回)
  • 沼尻竜典 (1990年、第40回)
  • ジョージ・ペリヴァニアン (1991年、第41回)
  • トマソ・プラシディ (1992年、第42回)
  • シルヴィア・マサレリ曽我大介 (1993年、第43回)
  • 阪哲朗 (1995年、第44回)
  • マルコ・パリゾット (1997年、第45回)
  • アルバロ・アルビアチーフェルナンデス (1999年、第46回)
  • 下野竜也 (2001年、第47回)
  • (該当者なし) (2003年、第46回)
  • リオネル・ブランギエ (2005年、第49回)
  • ダレル・アン (2007年、第50回)
  • 山田和樹 (2009年、第51回)
  • 垣内悠希 (2011年、第52回)

  • 日本人をピックアップしますと, 
    小澤征爾 (1959年、第9回)
    松尾葉子 (1982年、第32回)
    佐渡裕 (1989年、第39回)
    曽我大介 (1993年、第43回)
    阪哲朗 (1995年、第44回)
    下野竜也 (2001年、第47回)
    山田和樹 (2009年、第51回)
    垣内悠希 (2011年、第52回)

    と,どうも欧米指揮者にとっては,最早,魅力的な登竜門でも何でもなくなってしまっているようです.
    なかで現在も欧米で活躍中なのは,
    ズデニェク・マーカル (1965年、第15回),
    シルヴァン・カンブルラン (1974年、第24回)
    位のモノではないでしょうか.


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    Yannick Nézet-Séguin(Music Director designate of Philadelphia)の個性的演奏 [音楽時評]

    一度破産したPhiladelphia菅が再生を期して秋シーズンから長年空席だったMusic Directorに迎える予定のYannick Nézet-Séguin(born  6 March 1975 in Montréal, Québec, Canada) が,New York でのMostly Mozart に登場し,Chamber Orchestra of Europeを指揮して,そのかなり個性的な演奏が評価されていましたので,ほとんど原文のままご紹介します.

    Its new approach was evident in its two Mostly Mozart Festival concerts at Alice Tully Hall: a Beethoven program on Thursday evening, already reviewed, and works by Mozart, Bach and Mendelssohn on Sunday afternoon.

    Both were led by Yannick Nézet-Séguin, an inspiring, kinetic conductor on the eve of his first season as music director of the Philadelphia Orchestra, and no doubt some of the performance’s animating vigor could be attributed to him.

    He came to the task with compelling ideas. In Mozart’s “Don Giovanni” Overture, for example, it is natural to emphasize the dissonances that foreshadow both the don’s darker appetites and his eventual comeuppance, but few conductors lean on them more heavily — or more consistently, as they reappear through the piece — than Mr. Nézet-Séguin.

    That decision to pound home the work’s portentousness, exciting as it was, exacted a cost in subtler passages, like the rising and falling chromatic figures that follow soon after the introduction. Those should have sounded unsettling but were lost in the shock of what preceded them. And balances went awry in the fast section, though there, too, Mr. Nézet-Séguin’s focus on fleeting dissonances kept the attention mostly on the score’s narrative qualities rather than on the niceties of its execution.

    Mr. Nézet-Séguin took a similarly hard-driven, high-contrast approach to Mendelssohn’s Symphony No. 3 (“Scottish”). The most immediately striking quality of his reading was its dynamic play, which occasionally bordered on fussy manipulation but more typically pointed up the exquisite shape and emotional heft of Mendelssohn’s tuneful score. And he drew a delightfully meaty sound from the orchestra in the woodwind- and brass-heavy passages that give this piece so much of its character.

    この辺でもう十分と思いますが,この個性的な指揮者が,Principal Conduntor として,空席のMusic Director の穴埋めをしてきた,日本人にお馴染みのシャルル・デユトワのいわばオーソドックスな指揮に取って代わるのが,たいへん新鮮な響きを漲らせて,定期会員数の増大につながれば,Philadelphia菅の再建に大いに貢献するのではないかと期待されます.

    あとは,どうぞご自由に,ご渉猟下さい.

     

    Music Review

    Highlighting Contrasts and Not Holding Back

    Karsten Moran for The New York Times

    Mostly Mozart Festival Yannick Nézet-Séguin leading the Chamber Orchestra of Europe at Alice Tully Hall.

     

    When the Chamber Orchestra of Europe took its first steps into the spotlight, it left a mixed impression. This was an ensemble of young musicians, mostly alumni of the European Union Youth Orchestra, who wanted to continue working together as a professional group, and you wanted to root for them. They gave you plenty to work with: on their early recordings and tours the playing was energetic and trim, but it could also be cautious and prim, as if only the most finely polished performances were acceptable.

    Now, with more than three decades behind it, the orchestra plays with all the power, punch and sheer personality that was lacking in the early years. Its new approach was evident in its two Mostly Mozart Festival concerts at Alice Tully Hall: a Beethoven program on Thursday evening, already reviewed, and works by Mozart, Bach and Mendelssohn on Sunday afternoon.

    Both were led by Yannick Nézet-Séguin, an inspiring, kinetic conductor on the eve of his first season as music director of the Philadelphia Orchestra, and no doubt some of the performance’s animating vigor could be attributed to him.

    He came to the task with compelling ideas. In Mozart’s “Don Giovanni” Overture, for example, it is natural to emphasize the dissonances that foreshadow both the don’s darker appetites and his eventual comeuppance, but few conductors lean on them more heavily — or more consistently, as they reappear through the piece — than Mr. Nézet-Séguin.

    That decision to pound home the work’s portentousness, exciting as it was, exacted a cost in subtler passages, like the rising and falling chromatic figures that follow soon after the introduction. Those should have sounded unsettling but were lost in the shock of what preceded them. And balances went awry in the fast section, though there, too, Mr. Nézet-Séguin’s focus on fleeting dissonances kept the attention mostly on the score’s narrative qualities rather than on the niceties of its execution.

    Mr. Nézet-Séguin took a similarly hard-driven, high-contrast approach to Mendelssohn’s Symphony No. 3 (“Scottish”). The most immediately striking quality of his reading was its dynamic play, which occasionally bordered on fussy manipulation but more typically pointed up the exquisite shape and emotional heft of Mendelssohn’s tuneful score. And he drew a delightfully meaty sound from the orchestra in the woodwind- and brass-heavy passages that give this piece so much of its character.

    Between the Mozart and the Mendelssohn, the violinist Lisa Batiashvili and the oboist François Leleux gave a zesty, stylishly ornamented account of Bach’s Concerto in C minor (BWV 1060), reconstructed from the surviving two-harpsichord version. As an encore they played a sizzling duet version of “Der Hölle Rache,” the Queen of the Night’s flighty aria from “The Magic Flute.”


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    サントリーホール:都響プロムナード,チガーン指揮,スムvn [音楽時評]

    8月4日,サントリーホールに,東京都交響楽団プロムナード・コンサート,ユージン・チガーン指揮,アレクサンドラ・スムViolin を聴きに行って来ました.

    出演者は,.
    指揮:ユージン・チガーン;北西ドイツ・フィル首席指揮者,アメリカ人と日本人を両親に持つ.
    Violin: アレクサンドラ・スム;モスクワ生まれ,広く欧米のオーケストラと協演,昨年に続い 
                       ての来日です.
    コンサートマスターは矢部達哉でした.

    プログラムは,
    ブルッフ:     ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 作品26
            ※※※※※※※※
    R.シュトラウス: 交響詩「ドン・フアン」 作品20
                      :  交響詩「死と変容」 作品24
    でした.

    ブルッフは,なかなかの名演でした.
    Vorspiel: Allegro moderato/Adagio/Finale: Allegro energico の3楽章構成ですが,第1楽章は「前奏曲」と題されており、第2楽章と直接アタッカでつながれていて、実際に第2楽章の前奏の役割を果たしています.緩やかな第2楽章は、抒情性あふれる魅惑的な旋律で有名で,最初にフルートによって歌われた後、魅力的なヴァイオリン独奏によって受け継がれます.第3楽章のフィナーレは、弱音によるオーケストラの数小節によって始まり、ヴァイオリン独奏のダブルストップ奏法による熱狂的な主題が主部を占めます.第2主題は、ロマン主義に溢れています
    ブルッフはどこにもカデンツア挿入の余地を残してはいません.
    スムのガダニーニはまことに叙情性溢れた旋律にぴったりで,久しぶりに聴くこの曲の好演でした.

    シュトラウスの交響詩「ドンフアン」は,いうまでもなくドンフアン伝説にしたがったモノですが,全体の中間部近くで現れるオーボエの甘美な旋律と,それに続く4本のホルンの旋律が対照的で,終曲部では,ホルンの否定的な旋律が優位を占めて終わります.

    「死と変容」は,誰かの文学作品に触発されたものではなく,実際に重病人であったシュトラウスが.自己小説的に作曲した作品で,作曲順に(1)死の床にある病人と子供の頃の幸福な回想,(2)死との闘争,(3)死んでいく者の夢,死,(4)変容,の4部構成ですが,旧知の詩人;アレクサンダー・リッターに作品の内容を伝えてそれを詩にすることを依頼し,完成された詩は詩人の名を伏せて総譜の冒頭に掲げられることとなったそうです.
    時計の死を刻むリズム,ティンパニーに導かれて展開される闘争的な主部,ヴァイオリンに導かれて始まり,フルートの少年時代の回想,トロンボーンの死の動機,ハープを加えた変容の動機が続き,沈鬱さから解放されて闘いが浄化変容され,最後は明るく透明なハ長調の主和音で穏やかに閉じられます.

    2曲とも,東京都響の実力を遺憾なく引き出したまことに見事な好演でした.
    1981年生まれといいますから,まだ31歳くらいですが,なかなかの実力者なのに感心しました,またの来演を楽しみにしたいモノです

     

     

     

     

     


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    トッパンホール:アレクサンドラ・スムviolin リサイタル [音楽時評]

    7月31日,トッパンホールにアレクサンドラ・スムのヴァイオリン・リサイタルを聴きに行って来ました.先日の武蔵野文化会館小ホールでのダルバの聴きづらかったリサイタルの不快感を吹き飛ばしてくれる好演でした,

    昨年,1度,東京都港区のホールで聴いたことがあり,今回もぜひ聴きたいと思ったのです.なお,今回の来日では,東京都交響楽団のプロムナード・コンサート(8月4日)に出演して,ブルッフのヴァイオリン協奏曲を協演する予定です.

    スムの使用楽器は,以前,レオニダス・カヴァコスが使っていた1785年製のガダニーニだそうです.
    なお,ピアノ伴奏はフランソワ・ランブレでした.

    プログラムは,
    シューマン:   ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ短調 op.105
    グリーグ:     ヴァイオリン.ソナタ第3番 ハ短調 op.45
              ※※※※※※※※
    プロコフィエフ:  5つのメロディ op.35 bis
    ルトワフスキー: スビト
    ラベル:      ツィーガーヌ
    でした.

    最初のシューマン第1番は,先日のダルバの演奏した第2番の方が傑作といわれて総体的には地味な感じですが,スムのビロードのような美麗な音が,この曲をグンと引き立たせました.
    この曲の初演は1852年3月21日に、ゲヴァントハウスのマチネ公演でダヴィットとクララによって行われたといわれます.

    Mit leidenschaftlichem Ausdruck/Allegretto/Lebhaft の3楽章構成ですが,2つの楽器のバランスが図られ,簡潔な中にも、力強さや情熱的なものを感じさせる曲で,第3楽章のコーダで第1楽章の第1主題が回想されて,全曲の統一が図られています.
    譜面台をたてての演奏でしたが,曲の構成を理解した見事な演奏でした.

    グリーグの第3番は,グリーグのヴァイオリン・ソナタ中最も有名で演奏機会の多い曲です.初演は,依頼者のイタリヤ人ヴァイオリニストではなく,1887年12月10日ライプツィヒで,ロシア人ヴィルトゥオーソアドルフ・ブロツキーとグリーグによって行われています.グリーグはこの曲を愛していたといわれます,
    曲は,Allegro molto ed appassionato/Allegretto espressivo alla romanza/Allegro animato の3楽章構成で,
    The first movement is characterized by its bold and heroic opening theme.The agitated opening theme is contrasted with a more lyrical secondary theme. The second movement opens with a serene piano solo in E major with a lyrical melodic line. In the middle section, Grieg uses a playful dance tune. The finale is written in sonata form with coda but lacks a development section.
    と解説されています.
    とにかく,ブラームス,フランクと同時期に作曲された19世紀後半の3大ソナタと言われていますが,
    スムはたいへん曲の構成を把握した,表現力豊かな好演を聴かせてくれました.

    後半のプロコフィエフの5つのメロディ,ルトワフスキーのスビト,ラヴェルのツィガーヌは解説をしませんが,とりわけツィガーヌは冒頭の長いヴァイオリン・ソロが見事な有名曲ですが,それぞれを表情豊かに聴かせてくれました.

    ドイツ,ノルウエー,ロシア,ポーランド,フランスの曲の綺麗なヴァイオリン独奏をたっぷり楽しんだ一夜でした.
    8月4日のブルッフが今から楽しみです.

     


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