紀尾井ホール:ラ・サール・ピアノリサイタルの名演 [音楽時評]
6月4日,リーズ・ドゥ・ラ・サール(1988年フランス生まれ)のピアノ・リサイタルを聴きに行って来ました.実に表情豊かに音楽を作る,素晴らしい演奏会でした.
マルグリット・ロン(Marguerite Long)という有名なフランス女流ピアニストがいましたが(ロン・ティボー国際Competitionのロン),その再来を思わせる好演でした.
彼女の経歴を知ろうとHomepage に入ってみたのですが,再構成中ということで,詳細が分からないのが残念です.有名Competition の優勝歴は見られませんが,それは余計な詮索で,彼女のピアニスト歴には輝かしいモノがあり,ヨーロッパの有名音楽祭の常連になっているようです.
プログラムの裏面に写真入りで掲載されたCD6枚のなかには,フランス・モノが1枚もなく,リスト,ショパン,ショスタコーヴイチ,モーツアルト,バッハ&リスト,ラフマニノフと,独墺とロシアに偏っているのは,彼女がドイツ,ロシア系のピアニストに師事し,大きな影響を受けたことを示していると思われます.私見ではそれが今日の彼女に大きく貢献していると思えます.
今回の来日は,NHK交響楽団のオーチャード定期(6月3日,指揮は山田和樹)のソリスト(ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番)として来日したもので,5月31日名古屋しらかわホール,6月1日ザ・シンフォニーホールと今夜の東京紀尾井ホールでリサイタルを持ったということのようです.
チケット代は紀尾井ホールで¥3,000と割安感がありましたが,2階席のLもRも全部空席でした.(もっとも.後半は,マナーの悪い男性客が1人R1列目中央に1人ぽつんと座って,ズーーッとオペラグラスにしがみついていて,2階正面席からはたいへん目障りでした.紀尾井ホールのマナーの悪さは前にも書いたことがありますが,,,ナントカならないものでしょうか.)
プログラムは,
シューマン: 子供の情景 op.15
シューマン: 幻想曲 ハ長調 op17
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ショパン: 24の前奏曲 op.28
でした.
いずれも有名曲ですが,シューマンの[幻想曲」は,ベートーヴェンの記念碑建立の呼びかけに応じた作品で,ピアノ・ソナタに相当するこの大曲の随所にベートーヴェンの引用が込められています.
とりわけ終楽章に置かれた緩徐楽章は,ベートーヴェンのソナタ111を想起させる傑作です.
彼女の演奏の特徴は,1音1音を大事に綺麗に表現し,組曲やソナタの1曲,1楽章を非常に大事に
表現することにアルと思います.
それが子供の情景全13曲,幻想曲3楽章,ショパン全24曲にのそれぞれを珠玉のように鮮やかに描き出させ,全3曲に見事なまとまりを作っていました.
特に「子供の情景」の『トロイメライ』,幻想曲の終楽章,24の前奏曲の『雨だれ』の名演が,それぞれの曲集全体の名演に連なっていたと思われます.
20代前半の彼女のこれほど熟成した演奏には,たいへん素晴らしさを感じました.
彼女の今後いっそうの成長,成熟を期待したいと思います.
次の来日が待たれます,