SSブログ

トッパンホール:シュ・シャオメイのゴールドベルグ変奏曲好演 [音楽時評]

5月11日,トッパンホールにシュ・シャオメイのゴールドベルグ変奏曲演奏会を聴きに行って来ました.

シュ・シャオメイは中国の上海生まれ,8歳で北京で演奏,10歳で北京中央音楽院に入学しながら,文化大革命でピアノ勉学を中断しなければならなかったといいます.しかし,彼女は、聴衆が彼女の苦難に満ちた経歴を知ることで、演奏会の目的が不純なものになることを懸念して,彼女はただ純粋に音楽だけを聴いてほしいと願っている,といわれます.ですから,私もこれ以上のことは書かないことにします.

ただ,文化大革命終焉後,最初,アメリカに渡ったのですが,教師に彼女のテクニックは認めながら,音楽性を認められないまま過ごし,1985年にフランスに渡ります.
そこでようやくパリ国立高等音楽院のある有名教授に演奏を聴いてもらうことが出来,その教授は彼女の演奏を聴いて、「私があなたに教えることは何もありません.あなたは既に素晴らしいピアニストです」と言ってくれたといいます.
この言葉が彼女にとって大きな励みになったことは言うまでもありませんが,その教授は、彼女に安価な宿舎とピアノが練習できる場所を7カ所紹介してくれたそうです.

演奏機会に恵まれるようになるのは,さらに数年後のことで,パリのあるホーム・コンサートで彼女のゴールドベルグ変奏曲を聴いた老婦人から,彼女が現在住んでいる恵まれたセーヌ河畔のフラットを格安で借りることになったといいます.そこにスタインウエイを買い入れて住んで,1994年にようやくセーヌ川対岸のパリ市立劇場(テアトル・ドゥ・ラ・ヴィル)から、リサイタルの要請を受け、初めてパリで公式の演奏会を開くことができ,最初の演奏会から、客席は満席の大盛況で,その後、毎年このホールで開くリサイタルは、同様の状況だといいます.

やがて,パリのシャンゼリゼ劇場の要請を受けて、リサイタルを開催しましたが,これまでの演奏会同様、大成功に終わり,そのプログラムはやはり『ゴールドベルク変奏曲』だったといいます.シャンゼリゼ劇場からも、毎年彼女にリサイタルを開くよう要請を受けたといいます.
しかし,彼女は完全主義者で、年齢的に完璧な演奏ができなくなることを懸念し始めているそうです.

ちなみに,彼女はルネ・マルタンの誘いで,ラ・フォル・ジュルネ東京に昨年と1昨年来日しているそうです.

ゴールドベルグ変奏曲は元来はチェンバロ用に作曲されており,
アリア
第1~第30変奏
アリア
という構成ですが,そのうち第5,第7,第29変奏には,「1段または2段鍵盤」,第8,11,13,14,17, 20,23,25,26.28変奏は2段鍵盤と指定されています.

ゴールドベルク変奏曲は正しくは「2段鍵盤付きクラヴィチェンバロのためのアリアと種々の変奏」ですが,バッハの弟子のゴールドベルグがカイザーリンク伯爵のためにこの曲を演奏したという逸話から「ゴルドベルク変奏曲」の俗称で知られているモノです.

また,全4巻からなる「クラヴィーア練習曲集」の第4巻であり
第1巻:パルティータ BWV825‐830(パルティータ (バッハ)">第1番 変ロ長調, 第2番 ハ短調, 第3番 イ短調, 第4番 ニ長調, 第5番 ト長調, 第6番 ホ短調)
第2巻:フランス風序曲 BWV831 · イタリア協奏曲 BWV971                 
第3巻:前奏曲とフーガ 変ホ長調『聖アン』 BWV552・21のコラール前奏曲 BWV669‐689・4つのデュエット BWV802‐805("4つのデュエット"第1曲 ホ短調・ 第2曲 ヘ長調・第3曲 ト長調・ 第4曲 イ短調
第4巻ゴルトベルク変奏曲 BWV988

の構成です. 

19世紀のピアノ全盛時代には顧みられなかったこの曲が,ワンダ・ランドフスカがモダンチェンバロによる演奏を録音し、高く評価されて脚光を浴び,グレン・グールドはレコード会社に反対されながらもデビュー盤にこの曲を選択、1956年にリリースされたピアノ演奏のレコードが世界的な大ヒットとなったといわれます.

シュ・シャオメイの今夜の演奏は素晴らしいモノでした.最初の32小節のアリア主題が柔らかい音で美しく弾かれたとき,早くも感動を覚えました.30の変奏曲は確実なテクニックでしみじみと展開され,最初のアリアが終曲で回帰したときには,彼女の演奏の美しさが身に染みました.

また,是非来日して,同じ『ゴールドベルク変奏曲』を聴かせて貰いたいと願うモノです.

なお,私は,曾根麻矢子のチェンバロでゴールドベルクを聴いたことがあることを付言しておきます.


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。