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サントリーホール:都響B定期インバル指揮佐藤路世(cl) [音楽時評]

4月28日,マチネーで東京都交響楽団のプロムナード・コンサートを聴きに行って来ました.指揮はエリアフ・インバル,ソリストに楽団のクラリネット首席,佐藤路世が選抜されていました.なお,コンサートマスターは四方恭子でした.

プログラムは,
ウエーバー:   歌劇「魔弾の射手」序曲 作品77
ウエーバー:   クラリネット協奏曲第2番 変ホ長調 作品74
     ※※※※※※※※
ドヴォルジャーク:交響曲第7番 ニ短調 作品70
でした.

「魔弾の射手」序曲は堂々たる演奏で,メリハリの効いた好演でした.

クラリネット協奏曲第2番は,クラリネットの名手ベールマンに捧げられ,1811年に初演された曲ですが,クラリネットが縦横に活躍する名曲で,いくつもの入賞歴を経て都響の首席に入った佐藤路世が,朗朗と吹きまくって好演していました.東京都響に「佐藤あり」を顕示したといえます.

ドヴォルジャークは,第8番ほど有名ではありませんが,チェコを支配してきたハプスブルグ家への抵抗精神の高まりを背景にして作曲されたモノです.
第1楽章では,遠雷を思わせるティンパニの響きに乗り、ヴィオラチェロによって暗い第1主題が提示されて始まります.第2主題は、フルートクラリネットが提示する穏やかなものです.木管が入れ替わりながら第1,第2主題を展開し,第1ヴァイオリンに第2主題が受け渡されます.弦と菅が次第にクライマックスを形成して第1主題が再現され,長いコーダでも,第1主題がもう一度昂揚を作って,ホルンの静かな第1主題演奏で終わります.
第2楽章は三部形式の緩徐楽章で,木管楽器が入れ替わり主題を導き,弦に受け渡されます,中間部ではホルンの奏でる愛らしい牧歌的な主題が出て、クライマックスが築かれますが,クラリネットとホルンの応答の後、木管が残り,チェロが主要主題を奏して主部が回帰します.そしてひとしきりクライマックスを築いてから静まるり、オーボエが導入句を再現し、木管が応答しながら消え入るように終わります,
第3楽章スケルツォ:ヴィヴァーチェ ― ポコ・メノ・モッソ、三部形式のスケルツォで,弦楽器が特徴的なチェコの民族舞曲フリアントのリズムを刻む中、ファゴットチェロが主題を提示します.中間部はト長調に転じて速度を落とし、明るいカノンを思わせる音楽となります.第3部はやや簡略化され,長いコーダが付けられています.ここで使われるチェコ民族舞曲の旋律とリズムの美しさは忘れがたいモノです.
第4楽章 フィナーレ:アレグロ、ニ短調、ソナタ形式.第1主題はクラリネットホルンによる主題、第2主題は、チェロによって演奏される民謡風のものです.展開部ではこれらの主題とヴァイオリンによる結尾主題が提示されます,再現部の後コーダとなり,ここでは小結尾主題を扱って盛り上げたところで第1主題の冒頭部分を力強く奏でて速度を上げ,Molto maestosoに転じて速度を緩め、変形第1主題を壮大に演奏して、全曲が閉じられます.

この日最高の出来映えだったと思います.

インバルは今回の滞在を終えますが,晩夏からはマーラー・チクルスが始まるのが今から楽しみです.

 


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武蔵野文化小ホール:ブラックショウ・ピアノ・リサイタル [音楽時評]

武蔵野文化会館小ホールへ,イギリスのピアニスト,1949年生まれで60才代初期のクリスチャン・ブラックショウを聴きに行って来ました.

ブラックショウは10代にはオーボエを吹いていたといいますから,ピアニストとしては遅く出発したことになります.マンチェスター大学とRoyal Academy で学んだ後,レニングラード音楽院に学んだそうです.
いったん音楽界に登場した後,1980年代からおよそ20年間,姿を現さなかったといいますから,なかなか個性的なピアニストに違いありません.

プログラムノートに歯の浮くようなコメントが並んでいますが,上記の空白期間が既成の団子状態のピアニスト達と較べて,ある意味で新鮮さを持って受け入れられているのだと思います.2011年にはベルリンフィルと初協演したそうです.

今夜のプログラムは,
モーツアルト: ピアノ・ソナタ 第14番 ハ短調 K457
シューマン:  幻想曲 ハ長調 Op.17
          ※※※※※※※※
シューベルト: ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D.960
でした.シューベルトの作品は「遺作」と呼ばれるモノです.

モーツアルトは,もともと楽譜に細かな指定がないのですから,個性的な演奏に向いていると思いますが,このソナタはモーツアルト唯一の短調のピアノソナタなのですが,それにしては,このピアニストの明るい温色が,長調で書かれたロンド形式の美しい第2楽章(緩徐楽章:ベートーヴェンの第8番ソナタ第2楽章の旋律との関連性が指摘されている)で十分に生かされていたと思います.
第3楽章では,このピアニストが,フェルマータの休止を恣意的に長く取る傾向に気づかされました.

シューマンの「幻想曲」は,元々ベートーヴェンの記念碑を建立する資金のために書かれたもので,第1楽章(「幻想的に、情熱的に弾くこと」という指定付)の終結部に,ベートーヴェンの「遙かなる恋人に寄す」が引用されて静かに終わりますが,クララとの結婚にその父親から猛反対された絶望感が第1楽章に盛り込まれていて,冒頭のハ長調が.ハ短調に転調され,悲痛なハ短調主題が展開されています.
第2楽章は,自由なロンド形式で,行進曲風に始まり,ゆったりした部分を経て,輝かしく締めくくられています.
第3楽章は,自由なソナタ形式による静かな勝利の歌の緩徐楽章で,独特の余韻を残して終わります.この全曲を通して,フェルマータがかなり個性的に活用されていました.

シューベルトの[遺作」D.960は私がたいへん好きな曲で,昨年の内田光子の名演が記憶に焼き付いていますし,ブレンデルの名盤を良く聴いていているモノとしては,ブラックショウがイギリスの大先輩,内田光子(イギリス在住)やブレンデルの名演を聴いたことがあったのだろうかと訝しく感じました.
時に不必要に強く打鍵して音を濁らしてpp 部分とのバランスを崩していたのが残念でしたし.フェルマータの恣意的な扱いも不本意でした.

私は2日後に日本のピアニスト伊藤恵さんがこの曲を弾くのを,紀尾井ホールで聴く予定をしていますが,彼女の方が優れた演奏を聴かせてくれるモノと期待しています.

 


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