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サントリーホール:秋山和慶指揮東京交響楽団,神尾真由子演奏会 [音楽時評]

3月10日,サントリーホールに,秋山和慶指揮東京交響楽団第598回定期演奏会を聴きに行って来ました.神尾真由子が協演するのを聴くのが主目的だったのです.

プログラムはなかなかの意欲的なモノで,
ストラヴィンスキー: 交響詩「うぐいすの歌」
コルンゴルド:     ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
        ※※※※※※※※
スクリアビン:      交響曲第4番 「法悦の詩」 作品54
でした.

ここで,東京交響楽団にクレームですが,プログラムの頁が楽曲名だけで,楽章構成,各楽章のスピード指定が掲載されていないのは非常識です.他のどこの音楽会でも,今日では最低限の記載事項になっています.

交響詩「うぐいすの歌」は,バレー音楽により名声が確立したストラヴィンスキーが,多忙で作曲中断を余儀なくされたオペラ作品の第1幕と,中断後の第2,3幕の間に作曲手法に大きな隔たりが生じてしまい,2,3幕を交響詩として完成させたモノだそうです.中国の宮殿で,うぐいすの歌で癒やされていた皇帝が,日本から贈られた機械仕掛けのうぐいすを聞いて病気を悪化させたところへ,本物のうぐいすが戻ってきて救われるという,当時の世界情勢を彷彿させる作品ですが,オーケストレーションの巧みさによって,なかなかの興味深い作品に仕上がっており,秋山-東響もストラヴィンスキーらしい輝かしい音の響きを生み出していました.

コルンゴルドは,アメリカに渡って以後,すっかり映画音楽に力点を置いてしまったのですが,この協奏曲は,ドイツの敗戦後に久しぶりに書かれた作品で,各楽章の主題は,素材を映画音楽から転用して作曲されています.
第1楽章 Moderato nobile ニ長調,ソナタまたはソナチネ形式のように構成されていますが,自由形式の幻想曲風楽章といえます.序奏なしでヴァイオリン・ソロが歌う格調高い旋律は、映画音楽《砂漠の朝(Another Dawn)》のテーマ音楽が原型になっているそうです.躍動的な第2主題を経て中間部で映画音楽《革命児フアレス (Juarez)》の「カルロッタの主題」旋律が、ほぼ丸ごとヴァイオリン・ソロに引用されています.その後,第1楽章の変奏とカデンツァが入り,再現部では第1主題がオーケストラ全奏によって呈示され、「カルロッタの主題」の回想とその展開が続いた後、第2主題によって溌剌とした締め括りを迎えまず.
第2楽章 Romanze ト長調,しめやかな導入部に導かれて、ヴァイオリン・ソロによる主要主題が始まりますが,この主題は,映画音楽《風雲児アドヴァース(Anthony Adverse)》から取られており、対比的な中間部を経て、再現部で丹念に変奏されます.中間部は、特にこの協奏曲のために新たに書き起こされています.
第3楽章 Allegro assai vivace ニ長調,ロンド・ソナタ形式,ヴァイオリン・ソロにとって最も技術的要求の高い楽章で、スタッカートによる跳躍音型の第1主題に始まり,第2主題は映画音楽《放浪の王子The Prince and the Pauper)》のテーマ音楽からとられて,ヴァイオリン・ソロによって変ロ長調で呈示されます.全曲の華麗なフィナーレに相応しく、超絶技巧の駆使されたクライマックスが築き上げられて華麗に終わります.
映画音楽家として有名な人のヴァイオリン協奏曲は,あまり顧みられなかったのですが,ヤッシャ・ハイフェッツが熱心にこの曲の演奏を続けたことから,ようやくギル・シャハムヒラリー・ハーンによっても取り上げられ,バーバーのヴァイオリン協奏曲と共に,20世紀の名作の仲間入りしたモノです.

私は,前に,豊島泰嗣のヴァイオリン,指揮小澤征爾で聴いたことがありましたが,神尾真由子の歯切れの良い,音量を自在にコントロールした演奏は,格段に勝っていて,たいへん素晴らしい演奏を楽しむことが出来ました.

スクリアビンの「法悦の詩」は,科学-宗教-哲学の総合化を図ろうとする「神智学」の発想に基づく曲で,単一楽章ですが,少なくとも3つの主題を持っています.秋山-東響のコンビで,それらを明快に解き明かしながらの好演で聴くことが出来ました.

東響を聴くのは,川崎ミューザ以来ですが,ミューザの崩落以来,今は川崎市の各区役所併設の会館で時をしのぎ,一部はみなとみらいホールに移しているようですが,早く川崎ミューザの完全耐震改修が完了するのを期待したいモノです.


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