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トッパンホール:河村尚子ピアノ・リサイタルの好演 [音楽時評]

3月7日,トッパンホールに河村尚子のピアノ・リサイタル「師クライネフへのオマージュ」を聴きに行って来ました.

つい先日,所沢ミューズ・アークホールでのピアノ・リサイタルで河村尚子が取り上げたプロコフィエフへのコメントを,今日があるので留保しましたが,それは正解でした.大ホールのアークホールでは,プロコフィエフのダイナミック・レンジは勿論,河村尚子の微妙な強弱の付け方が,十分には伝わりようがなかったからです.

今夜はNaxos の会員登録から,プロコフィエフのピアノ・ソナタ第2番をエミール・ギレリス,第6番をスビャトスラフ・リヒテルの日本でのライブ録音で聴いてから出かけました.

プロコフィエフは私のイメージは余り良くないのです.名前は忘れましたが,昔ロシア人指揮者が,プロコフィエフについてプレトークをやってくれた時,プロコフィエフはピアノではラフマニノフに1歩も2歩も遅れをとって上手くいかず,交響曲ではいつもショスタコーヴィチに先を越されて上手くいかず,ロシア革命を契機にいったん日本を通ってアメリカに亡命したのに,そこでも成功できず,フランスからさらにドイツに渡っても上手くいかないでロシアに舞い戻ったけれども,スターリンと同じ年に亡くなってしまって,人生の春を迎えないまま終わってしまった.
しかし,近年ようやくその作品が見直されてきたという趣旨でした.

ピアノ・ソナタでいえば,第3番と戦争ソナタの第6~8番が一番良く演奏されているのではないでしょうか.その特徴は,今夜のプログラムノートによれば,「伝統様式の上に立った斬新なモダニズム」「明確な主題と不協和音の対比」「野性的なダイナミズムと抒情的表現の並立」などです.
無調性や12音音階にも入りきらずに踏み止まった者の,精一杯のモダニズムなのでしょう.

なお,ピアノ・ソナタ作品は第1番から第10番までですが,第10番Op.137は1分少々の「断章」に終わっており,実質的な最後のピアノ作品は,実は,第5番3楽章構成の「改訂版」Op.135(原典版はOp.38)です.

今夜はいずれも4楽章構成の第2番と第6番が選曲されていました.それぞれの前に小品が置かれ,プログラムは,オール・プロコフィエフで,
《ロメオとジュリエット》からの10の小品Op.75より
          2.情景,4.少女ジュリエット,6.モンタギュー家とキャプレット家
          8.マーキュシオ,10.別れの前のロメオとジュリエット
ピアノ・ソナタ第2番 ニ短調 Op.14
          ※※※※※※※※
束の間の幻影 より
           1.Lentamente,5.Molto Giocoso,7.Pittoresco"Harp"
                    8.Commodo,10.Ridicolosamente,14.Feroce
                   16.Dolente,17.Poetico
ピアノ・ソナタ第6番 イ長調 Op.82
でした.

《ロメオとジュリエット》からの10の小品はバレー譜からピアノに適した曲を編曲したモノで,たいへん柔らかく優しい優美な曲を端正かつ綺麗に弾いてくれました.

ソナタ第2番は,ⅠAllegro ma non troppo,ⅡScherzo,Allegro marcato,               ⅢAndante, ⅣVivace の4楽章です.鮮烈なリズムと斬新な和音の響きが印象的ですが,河村尚子は誠にダイナミックかつ鮮明に弾いてくれました.

後半の「束の間の幻影」は8曲が選曲されていましたが,それぞれがたいへん短いせいか,あっという間に終わってしまった感じでした.しかし,なかなか変化に富んだ短編集でした.

つい先週の土曜日に聴いた曲,ピアノ・ソナタ第6番は,ⅠAllegro moderato, ⅡAllegretto, ⅢTempo di valzer lentissimo, ⅣVivace の4楽章構成ですが,激情的に始める第1楽章が印象的ですし,第3楽章の叙情性も忘れがたいモノがありました.終楽章は第2番と同じ,プロコフィエフ好みのVivace で,短い中間部を挟んで,鍵盤を一杯に使い,強打が続いて,ピアニストの身体全体を駆使した好演でした.

オール・プロコフィエフではピアニストには体力勝負だと,何かに書いてありましたが,今夜は誠にさもありなんという熱演でした.

来週の月曜日に,紀尾井ホールで河村尚子が参加するトリオ演奏会が,今からたいへん楽しみです.

 


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