SSブログ

サントリーホール:内田光子ピアノ・リサイタル [音楽時評]

11月7日,サントリーホールにイギリスから来日した内田光子のピアノ・リサイタルを聴きに行ってきました.
先日はNeil Gilbert 都響客演をマチネーとは思わずに聞き損なってしまいましたが,今夜も,危うく最初の1曲を聴き損なうところでした.というのは,プログラムがシューベルト最晩年の大作ピアノ・ソナタ3曲でしたから,終演が遅くなり過ぎると考えて,予め開演が19時ではなく,18時30分に繰り上がっていたのです.

きちんと書きますと,プログラムは,
シューベルト:ピアノ・ソナタ 第19番ハ短調 D958
        :ピアノ・ソナタ 第20番イ長調 D959
         ※※※※※※※※  
        :ピアノ・ソナタ 第21番変ロ長調 D960
の3曲(遺作)でした.

このうち第19番は,先日イギリスの名ピアニスト,イモジェーン・クーパーで聴いたばかりです.演奏水準はほぼ同等ですから,両者の比較は辞めますが,そのブログで書いた曲の紹介を繰り返しておきます.
シューベルトのピアノ・ソナタ第19番は,最晩年に残された3つの名作ピアノ・ソナタの1曲目ですが,ベートーヴェンの影響を強く受けているといわれます.特に第1楽章の第1主題はベートーヴェンの創作主題による32の変奏曲に,第2主題は同じく「悲愴ソナタ」との類似性が見られます.しかし展開部の幻想的な音形はシューベルトならではのモノです.第2楽章Adagio の主題はやはり「悲愴ソナタ」と似ていますがシューベルトならではの美しい歌うメロディが浮き彫りになります.第3楽章Allegro では,速いメヌエットで,シューベルト晩年の不安を滲ませたメロディが魅惑的です.第4楽章はロンドソナタ形式のタランテラで,ベートーヴェンの作品31-3の終曲に似た流麗な旋律が何度も繰り返し現れますが,その中にシューベルトらしいリート形式の嘆きの歌が浮かび上がります.

19が暗い情熱、21が静寂な歌謡風の曲想であるのに対して、第20番は暖かで明朗な響きを特徴としています.
4楽章構成の作品で,長大なことから「イ長調の大ソナタ」と通称されています.               1楽章 Allegro イ長調 は,アレグロの活発な導入部を持つており,ベートーヴェン的な中間部の激しい展開を避け、歌謡的旋律を盛り込んでいます.2楽章 Andantino 嬰ヘ短調 は,寂寥とした曲想(三部形式)で,中間に幻想的な激しい展開があり、前楽章との均衡をとっています.終結部にベートーヴェンの運命の動機に似た強打音が現れ,強い影響が現れています.
3楽章 Scherzo: Allegro Vivace Trio: Un poco più lento イ長調技巧的な部分が多く,中間部には右手左手の交差の妙技がてんかいされます.4楽章 Rondo. Allegretto-Presto イ長調第4番のソナタイ短調(中間楽章)からの引用主題を活用したアレグレットのロンドソナタ形式(A-B-A-展開部-A-B-A-コーダ)で,最後はプレストにテンポを上げて華麗に終結します.

フランツ・シューベルトピアノソナタ第21番変ロ長調D960は、年/span>9月に他の2曲と前後して作曲されましたが,この曲は作曲者晩年のピアノソナタ3部作(ハ短調イ長調、本作)の最後を締めくくり、また、作曲者の生涯最後のピアノソナタです,
1楽章 Molto moderato 変ロ長調 ソナタ形式跳躍は少ないが、シューベルトらしい歌謡的な第1主題に始まり,瞑想的な低音のトリルの後、突如変ト長調によって主題の旋律が歌われ、曲はゆっくりと進行します.第2主題はゆっくり行進するような嬰ヘ短調の二重奏によって開始され、イ長調ロ短調ニ短調を経て、変ロ長調に回帰し、やがてヘ長調のコデッタに至り,再び低音のトリルによって提示部が反復された後、展開部が嬰ハ短調で開始され,様々な転調を繰り返し、トリルが連続する瞑想的部分に到達します,
2楽章 Andante sostenuto 嬰ハ短調三部形式。室内楽的(弦楽3重奏)な主題が提示され,中間部ではイ長調の暖かな低音の響きが印象的です.3楽章 Scherzo, Allegro vivace con delicatezza - Trio. 変ロ長調複合三部形式で,高音中心の優美な曲想で転調しながら主題が反復されます.リオ変ロ短調に変わり短いながら陰鬱な感情を見せます.                       
4楽章 Allegro ma non troppo - Presto 変ロ長調提示部を繰り返さないソナタ形式で,冒頭は、G音のユニゾンからハ短調で始まり、変ロ長調へと転調します.第1楽章同様に再現部は一切省略なしで,最後はプレストのテンポで壮大に締め括られます.

内田光子は,楽譜に忠実でありながら,音域,音量を一杯に使って,各曲の曲想を存分に展開し,3曲の内面を見事に弾き出した,たいへんな名演だったと思います.

この長大な3曲を一夜で提示して貰えたことに,深い感謝の念を禁じ得ません.なかなか得難い体験を出来たことをたいへん嬉しく思いました.私にとって,2011年で一番印象に残った優れた演奏会だったと思います.

切にご自愛の上,ぜひ又こうした優れた企画を展開されることを心から期待するモノです.


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。