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トッパンホール:全盛期を迎えたイモジェン・クーパー(pf) [音楽時評]

10月24日,トッパンホールに,イギリスの女流ピアニスト,イモジェン・クーパーのリサイタルを聴きに行ってきました.ブレンデルのお弟子さんですが,日本には2008年以来の来日だと思われます.
かつて,NHK交響楽団の定期会員を長く続けていた当時,もう10年以上前にクーパーがソリストとして登場し,清冽なモーツアルトのジュノムを聴いた記憶が残っています.

1949年生まれといいますから,もう61歳になるのでしょうか,2007年にイギリスで叙勲していますから,内田光子より2年早く叙勲していることになります.

これだけの実力を備えた人の素晴らしい演奏会が満席でなかったのが,不可解ですし,凄く惜しまれます.とりわけ日本人の若手ピアノ学生たちがほとんど見られなかったのは,いったい,彼等,彼女等は何を教えられ,何を学んでいるのでしょうか.
日本音楽コンクールのピアノ部門,ヴァイオリン部門の本選会がが昨日と今日開催されたのは承知していますが,私は昨年までは聴きに行っていた本選会を今年から縁切りにしました.日本でまったく国際化されないで開かれている音楽コンクールに,すっかり愛想が尽きたからです.

今夜のプログラムは,次の通り,すごく内容豊かでした.
シューベルト:   3つの小品 D.946
ベートーヴェン:  ピアノ・ソナタ17番 ニ短調 Op.31-2 《テンペスト》
          ※※※※※※※※
ブラームス:    主題と変奏 
原曲:弦楽六重奏曲1番Op.18 2楽章
シューベルト:   ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調 D958
でした.

シューベルト最晩年の「3つの小品」(ブラームスの校訂が加わっているといわれます)は有名な即興曲集にも並ぶ名品ですが,その第1曲目変ホ短調から,彼女の音の素晴らしさ,気品と情感豊かな美しさに身震いを感ずるほどでした.しかも小品といえども素敵な構築感で,曲の内面を弾き出していました.

「テンペスト」は,ごく最近別の若いピアニストで聴いた曲ですが,その記憶を払拭するほど,クーパーならではの力量が発揮されていました.曲の冒頭で僅か6小節の間にLargo, Allegro, Adagio と揺れ動くテンポが作り出す深い幻想と強烈なテンションが,クーパーの内面から醸し出される構築感に支えられて,聴衆を一気に彼女のピアノ世界に引き入れていました.2楽章の美しい叙情性を経て,第3楽章は一音一音を浮き上がらせるような彼女ならではの個性的な美しさに溢れていました.

ブラームスは小品ですが,これは弦楽六重奏曲のなかから華麗な第2楽章を,ブラームスが名ピアニスト,クララ・シューマンのために自らピアノ用に編曲したもので,たいへん幻想的な叙情性に溢れた曲でした.

シューベルトのピアノ・ソナタ第19番は,最晩年に残された3つの名作ピアノ・ソナタの1曲目ですが,ベートーヴェンの影響を強く受けているといわれます.特に第1楽章の第1主題はベートーヴェンの創作主題による32の変奏曲に,第2主題は同じく「悲愴ソナタ」との類似性が見られます.しかし展開部の幻想的な音形はシューベルトならではのモノです.第2楽章Adagio の主題はやはり「悲愴ソナタ」と似ていますがシューベルトならではの美しい歌うメロディが浮き彫りになります.第3楽章Allegro では,速いメヌエットで,シューベルト晩年の不安を滲ませたメロディが魅惑的です.第4楽章はロンドソナタ形式タランテラで,ベートーヴェンの作品31-3の終曲に似た流麗な旋律が何度も繰り返し現れますが,その中にリート形式の嘆きの歌が浮かび上がります.
この曲のクーパーの演奏は実にしっかりとした構成感で終始しました.シューベルトのD959と聴くのは今年3度目くらいですが(近く内田光子のD959, D960, D961 をサントリーホールで聴く予定ですが)今夜の演奏会のそれがなんといっても絶品でした.内田光子とはおそらく個性の差異に止まるでしょう.

クーパーの全盛期の演奏を聴けてたいへん幸せでしたが,まだまだ彼女の全盛期は続くでしょうから,来年もぜひ再来日して欲しいと心から願っています.
それにしても日本人ピアノ・フアンの何ともユニークな偏向は,NHKに代表されるマスコミが作り上げたものですが,これは何とかならないモノでしょうか!

 


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