王子ホール:ポール・ルイス(pf)シューベルト・チクルス [音楽時評]
7月1日に王子ホールにポール・ルイス(pf)を聴きに行ってきました. イギリス出身で,アルフレッド・ブレンデルの愛弟子として知られ,最近シューベルト・チクルスを始めているのですが,王子ホールはなかなかチケットがとりにくく,今夜が第2回だったのですが,私には初めてでした.
3年前にトッパンホールで1度聴いたことがあり,印象に残っていたのですが,今夜のルイスのシューベルトは素晴らしいの一言に尽きます.
プログラムは,オール・シューベルトで,
「12のワルツ,17のレントラー,9つのエコセーズOp.18,D145」より11曲
4つの即興曲 Op.90,D899
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ハンガリーのメロディ ロ短調 D817
ピアノ・ソナタ第18番 ト長調 Op.78,D894 「幻想曲」
でした.
最初の曲は,ブレンデルを思い起こさせるように,ステージに出てきてお辞儀をして椅子に座るなりいきなり11曲を弾き初め,ワルツ7曲,途中にレントラー4曲を挟んで,一気に弾いてしまいました.ほとんど切れ目を意識させないほどで,これで7曲目と思うくらいで終わっていました. そういえば,プログラムの冒頭に「シューベルト作品は,幻想の駅のようなモノなのかも知れない.線路を逸脱するように彷徨いながら,聴き終えても茫漠とした想いのなかに取り残される....あれほど美しくて,幸福と友愛に溢れ,あるいは絶望的に惛い風景のなかを辿ってきて,結局は出口なしの孤独に立ち戻ってしまう.」と書かれていました.
シューベルトの中期までの作品に,こうした楽しげなワルツがあったことを思い知らされた感じでした.
4つの即興曲は,ブレンデルの実演とCDで何度も何度も聞いた作品ですが,ルイスの演奏もブレンデル仕込みが露わでしたが,ブレンデルのあっさり感よりも,一段と丁寧に好演されていました.
後半の「ハンガリーのメロディ」は,ここでも,あっという間にピアノ・ソナタに入ってしまって,きちんと頭に入れる機会を失いました.
ソナタは,もともとは「ピアノ独奏のためのファンタジー,アンダンテ,メヌエットおよびアレグレット」と題されていたそうですが,生前に出版された最後の作品ともいわれますが,今ではピアノ・ソナタ「幻想曲」としてシューベルトのピアノ・ソナタの傑作の1つとなっています. 第1楽章から,主題を対立させることなく楽章の融合を見事に構成しており,たいへん叙情性に溢れています.アンダンテでは,優美な歌の流れにリズム音型が反復して挿入され,幻想性を醸しています.古典的なメヌエットでは素朴な主題が,最初に弾かれたレントラーを思い起こさせます.アレグレットはロンド形式のフィナーレで,多様な展開をみせながら,曲は静かに閉じられます.
しみじみとした名曲の名演奏でした.
12月予定の次回が,既に完売しているそうで,誠に残念に思っています.それでも,今秋は,内田光子がサントリーホールでシューベルト最晩年の名曲ソナタ3曲を弾く予定がありますから,それを楽しみにすることにします.
追記しますと,今夜はNHKが録画に入っていましたから,いずれ放映されると思います.最近は,よく本仮屋さんがクラシック番組のPRを,N響アワーの終わりのところで宣伝しますから,このブログ・タイトル類似の番組の宣伝に,ご関心の方はご留意下さい.