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サントリーホール:都響B定期小泉和裕指揮 [音楽時評]

7月19日,サントリーホールに東京都響B定期を聴きに行って来ました.指揮は,元来は,大植英次が予定されていたのですが,リハーサル2日目で,頸椎症で1週間の休養が必要という診断で,降板し,レジデント・コンダクターの小泉和祐がピンチヒッターで登場し,前半予定のリヒヤルト・シュトラウスの「バラの騎士」組曲(23分)に代えて,ベートーヴェンの「エグモント序曲」(9分)とワグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」より《前奏曲と愛の死》(19分)を聴かせてくれました.後半のチャイコフスキーの「悲愴」はそのままでした.

大阪フィルの大植英次については,いくつか前のブログでその虚像について書いたばかりでしたから,私にとっては歓迎すべき交替でした.

そんな訳で,指揮者は小泉和祐,
コンマスは矢部達哉でした.

プログラムは,ダブりますが,きちんと書きますと,
ベートーヴェン: 「エグモント」序曲 作品84
ワーグナー:   楽劇「トリスタンとイゾルデ」より〈前奏曲と愛の死〉
      ※※※※※※※
チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 作品74 「悲愴」
でした.

小泉指揮,都響は「エグモント」序曲冒頭のユニゾンから好調でした.エグモントは16世紀のネーデルランドで,当時のスペインの圧政に抗して立ち上がったフランドルの領主エグモントの物語を,ゲーテが戯曲として書き著したモノを,ベートーヴェンが全10曲の劇音楽として完成させたなかで,最も有名で単独で演奏される機会の多い曲です.そのコーダはエグモントが刑場に赴いて幕が閉じられたあとに演奏される「勝利のシンフォニア」の音楽と同一で,輝かしく曲が閉じられます.

ワーグナーの〈前奏曲と愛の死〉は余りに有名ですが,本来はイゾルデを案内して帰るべきトリスタンが,イゾルデと恋に落ち,愛と死を求めて彷徨う姿を描く前奏曲と,トリスタンの遺骸に寄り添ってイゾルデ(ソプラノ)が歌うパートは,オーケストラのクラリネットが歌うのが慣例になっています.
この2つの曲の演奏も見事でした.

後半のチャイコフスキーの「悲愴」は,
Adagio - Allegro non troppo/Allegro con grazia/Allegro molto vivace/ Adagio lamentoso - Andante
の4楽章構成です.作曲者自身が初演して,その後6日で亡くなったため,オリジナルな自筆譜に加えられた修正を巡って,長く論争があり,終楽章はAndante lamentoso が正しいとした改訂版が,1990年に相次いでロシア人指揮者によって初演,演奏されています.
今夜は,Adagio lamentoso演奏されましたが,小泉さんは,ほとんど最後の静かなチェロとコントラバスによるコーダの直前まで,3楽章を引きずって,力強く指揮していたのが印象的でした.

チャイコフスキーがスコアの表紙に書き込んだ副題はロシア語で「情熱的」「熱情」などを意味する "патетическая"(パテティーチェスカヤ)なので,「悲愴」は誤訳だとする議論もありますが,チャイコフスキーは,手紙などでは一貫してフランス語で「悲愴」あるいは「悲壮」を意味する "Pathétique" (パテティーク)という副題を用いていたので,「悲愴」で正しいということになっています.
その意味では,第4楽章のどの辺から演奏を静めるかも,指揮者によって差があるといえます.

ご関心の方は,聞き比べてみるのも一興かと思います.


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