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JTアートホール:JTが育てる室内楽シリーズ:スーパー高校生達 [音楽時評]

7月5日,JTアートホールに「JTが育てる室内楽シリーズ」:「スーパー高校生達の室内楽」を聴きに行って来ました,

出演者はいずれもかなり豊富な演奏歴を持つ次の高校生達でした.
毛利文香(ヴァイオリン) 2010年第79回日本音楽コンクール第3位 洗足学園高校
山根一仁(ヴァイオリン) 2010年第79回日本音楽コンクール第1位 桐朋女子校
田原綾子(ヴィオラ)    いくつかの受賞歴                  桐朋女子校
上野通明(チェロ)             々                     桐朋女子校
神谷悠生(ピアノ)                         々                                    桐朋女子校
といった面々でした.上野通明を除いて,すべて原田幸一郎に師事しています.

プログラムは,
ハイドン:   弦楽四重奏曲 第47番 嬰ヘ短調 Op.50-4 Hob.Ⅲ-47
シューベルト:弦楽四重奏曲 第14番 ニ短調 D.810 「死と乙女」
       ※※※※※※※※
シューマン: ピアノ五重奏曲 変ホ長調 Op.44
でした.ハイドンの第1ヴァイオリンは毛利文香,シューベルトとシューマンの第1ヴァイオリンは山根一仁と交替していました.

たまたま明日は王子ホールに東京クァルテットを聴きに行きますので,このブログは今夜のうちに書いておきます.

最初に指摘しておきたい点は,おそらく原田幸一郎さんは細かな指導はせず,彼等の自主性に任せたと思われることです.

まず,ハイドンでがっかりしたのです.それは日本のクァルテットにありがちなチェロの大きな太い音が目立ったからです.これは明らかにまともな弦楽四重奏のアンサンブルではありませんでした.チェロはもう1点,最低音の弦の音響が他の弦と音質が変わっていたのが気になりました.
彼はアンサンブルが余り問題にならない三重奏,たとえばピアノ三重奏向きだと思います.それなら1人1人が自由に弾けば済むでしょう.

それでもシューベルトではチェロはずっと控えめになっていて,こちらの方に練習時間を割いたのだろうと思いました.それでも,本来,ヴィオラと共に,アンサンブルの下支えをするという境地にはまだまだでした.あるいは彼の楽器が優れて大きな音量が出てしまうのかも知れませんが...

田原綾子さんのヴィオラの美音はたいへん優れていました.この人が室内楽で成長してくれると将来が期待されると思います.

チェロが気になったひとつの理由は,ヴァイオリンが2人ともそれほど豊潤な響きを聴かせていなかったからということにもなります.2人共,テクニックは優れていて,美音を聴かせてくれたのですが,音量ではチェロに押されていました.むしろチェロの問題なのかも知れませんが...

山根一仁の1昨年の日本音楽コンクール本選での演奏を思い出していましたが,大胆にショスタコーヴイチの協奏曲に挑んだのですが,テクニックに流れて,ショスタコーヴィチの内面に食い込んだ解釈を怠った空虚さを思い出していました.このまま売れ続けると,そのテクニックに流れる傾向が固定化してしまうのではないかと大いに懸念するモノです.早くヨーロッパに留学して,もっと個性を磨き,作曲者の内面の理解も深めるよう期待したいのですが...

その点では,今夜の白眉は,シューマンにあったと思います.ここではピアノと弦楽四重奏が渡り合う形ですから,弦楽の4人共,のびのびとピアノと渡りあっていたと思えるからです.
ピアノが必ずしも達者ではなかったことも付言しておきます.

最後に,気になった点を挙げますと,この4人は本当に室内楽奏者として将来を見定めているのでしょうか.いきなり「死と乙女」を持ってきたあたりに,この4人が「思い出」に弾いておこうという気持ちが働いたのではという疑念を禁じ得ませんでした.

「スーパー高校生たち」というタイトルは誰の発案か知りませんが,私には,聴き終わって,どうにもいただけないオーバーなタイトルと思えてなりませんでした.理由の第1は,日本音楽コンクールはいつまでたっても国際的にオープンにならないコンクールで,その優勝にどれほどの意味があるのか分からない存在だからです.

明日は,対象的に,来年6月に解散を予定しているクァルテットを聴きますが,今秋久しぶりの帰国公演が予定されているロータス・クァルテットと並ぶ存在が,どうやらメンバー交代を控えていそうなアルモニコと,フィリアホールの経営形態の変化と共に今年が最後になりそうなアルティ弦楽四重奏団といずれも不透明な点があって,早く21世紀を背負う日本のクァルテットの成長を期待したいモノです.


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