公益財団法人化から落ちこぼれそうな楽団 [音楽時評]
日本の法人制度が改正され,単なる財団法人ではなく公益財団法人化しなければ,税制上の優遇措置が受けられなくなるそうで,その更新期限が2013年秋に迫る中で,公益財団法人の要件を満たせない状況で危機に陥っているオーケストラが存在します.
要件として,
(1)負債をかかえていないこと,
(2)過去2年間健全財政を達成していること,
(3)最低300万円の基本財産を有すること,
が上げられているのです.
ここでは東京のメジャー・オーケストラに限っていいますと,その要件を達成できなくって,危機を公然と公衆に訴えかけている楽団に,老舗の「日本フィルハーモニー交響楽団」が上げられます.
下表に,日本オーケストラ連盟が公表した2009年度の収支状況を表示しておきました.
いわゆる御三家という表現が,なるほどと思わせますし,東京フィルハーモニーが合併して国立劇場のピットに入る回数が増えて,一挙に,演奏回数やそれに見合う収入が増大しているのが分かります.
それにしても,創立が1956年の日本フィルハーモニーが,1972年に分裂していった新日本フィルハーモニーがいち早く達成した公益財団法人化に大きく遅れを取ったのは何故なのでしょう.御三家はもとより,東京フィルハーモニーも既に公益財団法人化しています.
下表で見る限りは,日本フィルの収支は黒字化しています.しかし,楽団のアピールを見ますと,累積債務が2億円(なぜそこまで膨れたのか説明がないのですが)に達しており,このデフレ下でそれだけの寄付を募るのに大きな困難が生じているようです.
しかし,首席指揮者ラザレフのもとに,この9月からブザンソン指揮者コンクールで優勝し,今後の大化けが期待される新鋭の山田和樹を正指揮者に迎えることが決まっていて,演奏の充実が期待されています.
私が,傍から見ていて,感ずることは,せっかく富裕区の杉並区に練習場を確保しながら,そこの定員1100人を半端な数として,新日本フィルハーモニーが墨田区トリフォニーホールでやったようなフランチャイズ化を徹底しなかったことが,今の浮草稼業に現れているように思われるのです.
今からでも,第1に,きちんと毎月2回の杉並定期を設けて,杉並区民を安価に会員化すれば,2回共満席に近い状態にすることは可能だと思いますし,第2に,他のホールでやる定期の最後のリハーサルを同じく区民中心にワンコインででも公開リハーサルとしてやるようにすれば,杉並区からの会員数は数10%は増やせるのではないでしょうか.
提案の根拠は,下の表で一番目立つのが,他のメジャー・オーケストラとの比較で会員数が大きく見劣りするからです.
私には1956年発足という歴史に胡座をかいていたことが,背景にあるように思われてなりません.
外部に支援をアピールする前に,アメリカのオーケストラがやったような賃金・ボナス・カット,人員削減の努力も求められるのではないでしょうか.支援アピールには,そうした内部努力の経過は何も説明されていないのです.
来年までの多大なご努力とそのご成功を祈ります.
団体名 | 創立年 | 公演数 (回) | 会員数 (人) | 総観客数 (人) | 楽員数 (名) | 年間収入 (千円) | 演奏収入 (千円) | 年間支出 (千円) |
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札幌交響楽団 | 1961年 | 124 | 2,973 | 161,424 | 76 | 534,147 | ||
仙台フィルハーモニー 管弦楽団 | 1978年 | 117 | 598 | 86,900 | 77 | 881,287 | 414,865 | 899,071 |
山形交響楽団 | 1972年 | 140 | 2,450 | 83,500 | 48 | 404,193 | 204,201 | 421,213 |
群馬交響楽団 | 1945年 | 159 | 802 | 127,997 | 68 | 762,361 | 209,588 | 762,361 |
ニューフィルハーモニー オーケストラ千葉 | 1985年 | |||||||
NHK交響楽団 | 1926年 | 111 | 10,015 | 219,710 | 109 | 3,027,308 | 1,269,506 | 2,880,718 |
読売日本交響楽団 | 1962年 | 95 | 4,404 | 134,435 | 92 | 2,334,913 | 526,818 | 2,101,115 |
東京フィルハーモニー 交響楽団 | 1911年 | 320 | 3,787 | 471,000 | 157 | 1,854,162 | 1,504,042 | 1,941,045 |
東京都交響楽団 | 1965年 | 169 | 3,788 | 199,868 | 86 | 1,871,080 | 755,616 | 1,838,270 |
新日本フィルハーモニー 交響楽団 | 1972年 | 150 | 4,568 | 224,725 | 96 | 1,330,644 | 986,633 | 1,282,222 |
東京シティ・フィル ハーモニック管弦楽団 | 1975年 | 125 | 331 | 174,975 | 62 | 510,108 | 412,874 | 500,649 |
東京ユニバーサル・ フィルハーモニー管弦楽団 | 1973年 | 134 | 167 | 85,050 | 63 | 126,528 | 121,348 | 127,793 |
日本フィルハーモニー 交響楽団 | 1956年 | 153 | 3,005 | 196,878 | 89 | 1,381,668 | 967,870 | 1,346,916 |
東京ニューシティ 管弦楽団 | 1990年 | 128 | 356 | 100,000 | 60 | 321,970 | 308,070 | 314,612 |
神奈川フィルハーモニー 管弦楽団 | 1970年 | 131 | 955 | 182,609 | 70 | 721,405 | 379,380 | 696,458 |
東京交響楽団 | 1946年 | 167 | 3,431 | 234,700 | 93 | 1,295,202 | 1,101,548 | 1,373,957 |
オーケストラ・ アンサンブル金沢 | 1988年 | 128 | 2,667 | 116,836 | 32 | 1,096,009 | 474,743 | 1,009,852 |
静岡交響楽団 | 1988年 | 38 | 206 | 25,450 | 50 | 48,497 | 42,619 | 57,405 |
名古屋フィルハーモニー 交響楽団 | 1966年 | 124 | 2,828 | 163,560 | 77 | 1,186,930 | 509,399 | 1,217,333 |
セントラル愛知交響楽団 | 1983年 | 135 | 326 | 94,000 | 46 | 275,324 | 217,507 | 274,684 |
中部フィルハーモニー 交響楽団 | 2000年 | 40 | 54,000 | 43 | 145,914 | 107,519 | 140,518 | |
京都市交響楽団 | 1956年 | 95 | 715 | 110,000 | 82 | 153,602 | ||
京都フィルハーモニー 室内合奏団 | 1972年 | 129 | 186 | 100,000 | 16 | 193,580 | 175,874 | 190,380 |
関西フィルハーモニー 管弦楽団 | 1982年 | 110 | 550 | 91,000 | 60 | 491,400 | 387,254 | 491,152 |
大阪フィルハーモニー 交響楽団 | 1947年 | 114 | 1,374 | 174,000 | 77 | 1,027,664 | 568,697 | 1,066,809 |
大阪交響楽団 | 1980年 | 108 | 231 | 100,000 | 54 | 505,120 | 379,757 | 500,530 |
大阪センチュリー交響楽団 | 1989年 | 106 | 771 | 137,816 | 45 | 785,444 | 253,579 | 734,220 |
ザ・カレッジ・オペラハウス 管弦楽団 | 1988年 | 38 | 29,317 | 33 | 59,092 | |||
兵庫芸術文化センター 管弦楽団 | 2005年 | 122 | 3,652 | 160,000 | 39 | 759,057 | 301,254 | 759,057 |
広島交響楽団 | 1972年 | 101 | 677 | 93,442 | 65 | 715,893 | 323,490 | 705,716 |
九州交響楽団 | 1953年 | 120 | 918 | 106,000 | 71 | 839,825 | 388,061 | 899,314 |
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