東京文化小ホール:ゼリンガー(msp)小菅優(p)独唱会 [音楽時評]
3月31日,東京文化会館小ホールに,ミヒャエラ・ゼリンガーのメゾ・ソプラノ・リサイタルを聴きに行って来ました.ピアノ伴奏は,今,河村尚子と人気を2分する小菅優でした.
つい最近までは河村尚子が先を行っている感じでしたが,ここへ来て,小菅優の方が着実に実績を重ねている感じです.小菅優は既に昨年からベートーヴェン・ピアノ・ソナタ・チクルスを初めて,もうその第1弾になるレコーディングを終えています,また,有名歌手の伴奏経験でも,今日で小菅優が一歩先んじた感じです.
ゼリンガーは2005年から総監督のホレンダーによってウイーン国立歌劇場に招かれ,最初は合唱団員でしたが,無為の小澤征爾監督が去った後,急速にソリストとしてスターダムに躍り出た人です.
直前のブログでメゾソプラノ歌手の高音と低音で,低音で声が割れるといいましたが.この人は高音から低音まで実に見事でリリックな若々しい美声でした.
プログラムは,
シューベルト:ゲーテの詩による歌曲
ミニョン「君よ知るや南の国」 D.321
ガニュメート D.544
湖上で D.543
糸を紡ぐグレートヒェン D118
憩いなき愛 D.138
ミューズの息子 D.764
恋する者のさまざまな姿 D.558
歓迎と別れ D.767
マーラー:《リュッケルトの詩による5つの歌》
私の歌をのぞき見しないで
私は快い香りを吸い込んだ
私はこの世に捨てられて
真夜中に
美しさをあなたが愛するなら
※※※※※※
信時 潔:歌曲集《沙羅》(詩:清水重道)より
丹澤、
鴉、
占ふと、
行々子(よしきり)
R.シュトルツ:
歌は終わった(映画音楽)
喜歌劇《二人の心はワルツを奏で》より
「あなただって、いつかはわたしを裏切るわ」
ウィーンの春
喜歌劇《人気者》より「君はわが心の皇帝」
でした.
アンコールが3曲でしたが,2曲目にシューベルトの「ます」が入っていました.
小菅優は,とにかく最初から譜めくりさんに楽譜を委ねないで,自分で楽譜を持ち込んで,きちんと順番にピアノの譜面台に並べて,終わったモノからどんどん左端に積み重ねて,極力,譜めくりさんの手を煩わせませんでした.実際,譜めくりさんが譜面をめくったのは前半の長い曲でだけの5回くらいで後半は譜めくりさん無しでした,
何よりもゼリンガーと小菅優の息がピッタリ合って.少しのズレも生じませんでした.
ゼリンガーはいわば大船に乗った気持ちで,心地よさそうに,作曲家単位に曲を続けて名演を展開してくれました.とりわけシューベルトの有名な「糸を紡ぐグレートヘン」には聴き惚れました.
都響に続いて,マーラーの前期の歌曲を聴く機会に恵まれましたが,こちらのマーラーはたいへん聴き応えがありました.
後半に信時潔の作品が入ったのですが,おそらくローマ字で歌った歌詞に違和感がなかったのが驚きでした.小菅優が徹底して修正してあげたのではないでしょうか.
シュトルツの作品は映画音楽からの作品があったり,オペレッタからの作品があって,たいへん生き生きとした明朗な歌が続きました.
これだけ2人がピッタリと息の合ったメゾ・ソプラノ・リサイタルは珍しいといって良いほどで,まことに希に見る歌唱とピアノの好演でした.
またぜひ再現の機会を持って欲しい2人です.
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