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神奈川県立音楽堂:東京クヮルテットの名演 [音楽時評]

来年解散が予定されている東京クヮルテットを聴きに,神奈川県立音楽堂に初めて行って来ました.紅葉坂を登り切ったところにあるので,時間に余裕をもって出かけた方が良いホールです.

ホールは,音楽専門ホールとしては国内で初めて作られたモノだそうで,それにしても確かにたいへん音響の良いホールでした.
東京クヮルテットもお気に入りのホールだそうで,何度もお馴染みのホールだそうです.

この6月には,王子ホールでの公演が2回,清水直子さんを加えて予定されていますが,ことによったら,それが日本での「さよなら公演」になる可能性もあります.

今夜のプログラムは,
ハイドン:    弦楽四重奏曲 81番 ト長調 op.71-1 Hob.Ⅲ-81
バルトーク:   弦楽四重奏曲 第3番 Sz.85
            ※※※※※※※※
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第15番 イ短調 op.132
でした.

ハイドンは,弦楽四重奏曲を67曲完成させていますが,ハイドンのこの曲は,op.77 "Lobkowitz" quartets (1799)2曲の1曲目の曲です.その前のErdödy quartets の6曲には,「皇帝」「日の出」「ラルゴ」など有名曲が含まれ演奏機会が多いのですが,その2年後の Lobkowitz 2曲は,もう一つ未完で終わったQuartet No. 68 in D minor, Op. 103, Hoboken No. III:83 (incomplete)を除けば,彼の弦楽四重奏曲では最晩年の円熟期の2曲のうちの1曲です.それだけに複雑な要素を各楽章に取り入れた変化に富んだ名曲です.
東京クヮルテットは,Allegro moderatoーAdagioーMenuetto Presto-TrioーFinale Presto と多様性を織りなした曲を端正に好演してくれました.
ただ,若いチェロの朗朗たる響きに較べて,年配の磯村さんのヴィオラが少し衰えを隠せない風情でした.

バルトークは民族音楽の調査研究に打ち込んだ人で,彼の弦楽四重奏曲にはそれが凝縮されています.なかでも第3番はModerato,Allegro が一気に演奏される知的で,アグレッシブなリズムと響きが支配する名曲です.事実上,第2部のAllegro が第1部の再現コーダになっているのです.
この緊迫感溢れる曲を,東京クヮルテットは,見事に凝縮した名演奏で聴かせてくれました.

ベートーヴェンの第15番は
第1楽章 Assai sostenuto - Allegro イ短調、序奏つきソナタ形式
第2楽章 Allegro ma non tanto イ長調三部形式
第3楽章 "Heiliger Dankgesang eines Genesenen an die Gottheit, in der lydischen Tonart(リディア旋法による病癒えたる者の神への聖なる感謝の歌)" Molto Adagio - Andante ヘ調のリディア旋法五部形式
第4楽章 Alla Marcia, assai vivace (attacca) イ長調 二部形式
第5楽章 Allegro appasionata - Presto イ短調、ロンド形式
と5楽章構成で作曲されています.
両端楽章には神秘性と悲劇性が強く表れていますが,第2,第4楽章には愉悦の要素が含まれており,長い題名の第3楽章のAndante 部分には,別に「新たな力を感じて」と書かれています.
約50分を要する大曲ですが,この曲が,今夜の白眉となる演奏でした.何度も何度も同じやや沈鬱なメロディが奏でられますが,そこでホッとするほど,全体が引き締まった緊密度の高い曲を,丁寧に力演してくれました.
このホールへのお別れのメッセージでもあったのでしょうか.

終演後,4人にホールから花束が贈られ,アンコールにべートーヴェンとは対極的な,1991年作曲の現代曲が短く演奏されましたが,その前に,池田さんがマイクを持参して,このホールへの思い出と賞賛が語られ,継いで,磯村さんがやはるホールへの思い出を語り,ビーヴァーは日本語でホールと聴衆を讃え,グリーンスミスは最初日本語,後半英語で,静かに聴いてくれた聴衆への謝辞が述べられました.

まだ6月の王子ホールが残っていますが,一時代を画した名クヮルテットが来年で解散することが決まっており,心からご苦労様でしたと申し述べたいと思います.
紅葉坂といい神奈川県立音楽堂といい,ひとつの思い出を作って貰った演奏会でした.

 

 

 


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