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行徳文化ホール:小菅優ピアノ・リサイタル [音楽時評]

開館当初はそれなりの音響効果だったこの行徳文化ホールが,学童の合唱や吹奏楽からの要求に押されて,ステージを固定で前に約3メール張り出させてしまったため,一挙に音響が悪くなって聴きに行く機会がなかったのですが,最近,張り出しを取り払って(多分,震災の影響からだったのでしょうが?),その部分には折りたたみ椅子が5列並ぶようになって,それなりの音響効果に戻ったというので,小菅優が来演の機会に彼女を聴きに出かけました.

小菅優は,吉田秀和さんが,共に若くしてヨーロッパに渡った河村尚子と小菅優は,日本人ピアニストでは別格で,大いに将来が期待されるという音楽評を書かれて以来,たいへん注目を集めている若手ピアニストの1人です.

今日のマチネーのプログラムは,
ベートーヴェン:     ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調 op.27-2「月光」
シューマン(リスト編曲): 歌曲集《ミルテの花》op.25-1「献呈」
リスト:           メフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」 S.514
        ※※※※※※※※
シューマン:        謝肉祭-4つの音符による面白い情景 op.9
でした.
なお,配布されたプログラムは,いわゆるプログラムではなく,曲と楽章のミニ解説とごちゃ混ぜになっていて,たとえば「月光」の第1楽章は,「月光の曲」として知られています.と書かれていて,何を今更という感じでしたし,曲名の横文字も,各楽章のテンポ指定の横文字もどこにもないのです.
これは,たいへん非常識で聴衆を見下していると思えてなりませんでした.そもそも外国人の聴衆は考えていないのでしょうか.市川市がその程度とは思えないのですが...
内容も,謝肉祭のところで,全体は21曲と書かれていますが,列挙されたなかの「パガニーニ」は,通常は「ドイツ風ワルツ」の中間部としてカウントしないはずで,全20曲とカウントするのが一般的です,ただ,もし1月9日に東京文化会館小ホールでシューマンについてのレクチャー・コンサートをされる小菅優さんによる説明なら,きちんとそう明記すべきですし,そうでない場合にも,文章の責任者を明記すべきでしょう.

演奏では,
「月光」は,東京紀尾井ホールでベート-ヴェン・チクルスを始めている小菅優さんに相応しく,ベートーヴェンの3楽章を,たいへん鮮明に,第1楽章,第2楽章のピアニッシモを中心とした抒情的な演奏と第3楽章の激情的な畳みかけるような演奏の対比がまことに見事でした.

「献呈」は,昨秋の NHK音楽祭で,河村尚子さんが「皇帝」協奏曲のあとのアンコールで弾いた曲だったので,注目して聴いたのですが,2人を較べるとすると,甲乙ではなく,河村さんの方が叙情性を全面に出していたのに,小菅さんは叙情性にダイナミズムがミックスされた感じを受けました.

リストは,必ずしもいわゆる超絶技巧曲ではありませんが,それにしても変化の早い,高度の技巧を要する曲を,鍵盤一杯に両手を駆け巡らせて,バランス良く,ダイナミックで絢爛たる演奏を披露してくれました.

「謝肉祭」はシューマンの傑作曲ですが,副題の「4つの音符による面白い情景」にある4つの音符は,実らなかった恋の相手エルネスティーネ・フォン・フリッケンの出身地アッシュ)のドイツ語表記「ASCH」を音名で表記した、《 As - C - H 》、《 A - Es - C - H 》に基づいており,、「前口上」、「ショパン」を除く総ての曲に,これらの音列のいずれかが用いられています.また,全20曲の中には,架空の「ダビッド同盟」の構成員の他,音楽家,ショパンパガニーニ、後に妻となるクララが登場しています.
たいへん変化に富んだ20曲が,まことに精密,鮮明に,しかもダイナミックに力演されました.たいへんな好演だったと思います.

近接地に優れた音響効果の「独立した建物」の小ホールがあって,こうした若手大物ピアニストを聴く機会に恵まれたことは,たいへん良かったと思います.

大都市で,区単位に作られるホールは,とかく多目的ホールで,設計にも無理をしている場合が少なくありませんが,最近私が行った中では,目黒パーシモン・ホール小ホールと今日の行徳文化ホールは,いずれも独立に音楽ホールとして造られていて,それなりの音響の響きの良さを備えていると思われます.




 

 


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