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トッパンホール:ゲルハーヘルのマーラー歌曲集 [音楽時評]

12月9日,トッパンホールに,ドイツ出身のバリトン歌手クリスチャン・ゲルハーヘルの,ピアノ伴奏による,グスタフ・マーラー歌曲集を聴きに行ってきました.ピアノはコンビの長いゲロルト・フーバーでした.
12月2,4,6日とイギリスのテナー歌手マーク・パドモアによるシューベルトの三大歌曲集を聴いたばかりだったので,ドイツ生まれのゲルハーヘルのバリトンの深み,重厚さには安心感がありました.年代はパドモアより5歳くらい上の50代半ばと思います,

それにしても,マーラーの歌曲集をピアノ伴奏で聴くのは珍しい経験といえます.それらの初演はほとんどオーケストラとの協演で行われているからです.

ゲルハーヘルは,つい今週,王子ホールでマーラー2夜を歌ってきたばかりで(2008年にはシューベルト3大歌曲集),今夜のプログラムはその第1夜と同じでした.

プログラムは,便宜上,王子ホールの呼称を借用しますと
「さすらう若人の歌」:作詞;マーラー(ドイツ民謡集『子供の魔法の角笛』を下敷きにした自身の悲恋物語) 
 第1曲;恋人の婚礼の日,
 第2曲;朝に野原を往けば,
 第3曲;ぼくは燃える刃を抱え,
 第4曲;恋人の碧い二つの瞳
「子どもの魔法の角笛」より: ドイツ民謡集『子供の魔法の角笛』から選択されている 
 だれがこの歌を作ったのだろう/夏に小鳥はかわり/私は緑の森を楽しく歩いた
 いたずらな子をしかりつけるために/ラインの伝説/番兵の夜の歌
    ********** 休憩 **********
「子どもの魔法の角笛」より
 塔の中の囚われびとの歌/この世の生活/シュトラスブルクの砦の上で/
 麗しきトランペットが鳴り響くのは
「亡き子をしのぶ歌」:原詩はリュッケルトの作った425篇からなる詩集 
 第1曲;いま太陽は輝き昇る,
 第2曲;なぜそんなに暗い眼差しなのか、
 第3曲;今にしてよくわかる,第4曲;おまえのお母さんが,
 第4曲;ふと私は思う、あの子たちはちょっと出かけたいだけなのだと,第5曲;こんな嵐に
でした.

「さすらう若人の歌」は,マーラーの歌曲集のうち、統一テーマによって作曲された最初の連作歌曲集といわれ,最初はピアノ伴奏で書かれたようですが,初演はオーケストラ版で行われています.自身の悲恋体験を元にしたといわれます.
「子どもの魔法の角笛」は,ドイツ民謡集『子供の魔法の角笛』から選択されています.
「亡き子をしのぶ歌」は子供を失ったリュッケルトの長編詩集から選ばれていますが,マーラー自身が,この曲作曲後,数年を経ずして愛児を失う経験をし,この作曲を後悔したといいます.

ゲルハーヘルは,フィッシャーディスカウやシュワルツコップフに学んだといいますから,ドイツのいわば正統派の歌手といえるのでしょう.

とにかく,重厚な声量を駆使し,きわめて明晰な発音で,深々とした歌唱をたっぷりと堪能させてくれました.

王子ホールの第2夜では,「大地の歌」を中心にしたリサイタルだったそうで,聴けなかったのが残念です.なお,ゲルハーヘルが王子ホールに寄稿したなかに,ピアノ版の意義について次の文章がありましたのでご紹介しておきます.
「マーラーの熟達のオーケストレーションを「聴かせない」ことによって、感じることができるものがある、と考えたからです。むしろ、ピアノ稿の演奏によって、そのモノクロームな音色から多くの利点が得られ、その音色によって、歌唱にも音色の自由の余地が生まれますマーラーのようなオーケストラ歌曲の大家であっても、結局最後までピアノ歌曲からは離れませんでした。ほとんどのピアノ用編曲は自らの手によるものという事実を見ても、これは自明のことでしょう。もともと「芸術歌曲」とは、ピアノ歌曲のことを意味していたのですから。」(下線は私が付加)

その意味で,マーラーのピアノ版の歌曲を,ゲルハーヘルとその名コンビのピアノ伴奏の名手,フーバーによって,これだけたっぷりと聴けたことを,たいへん幸いに思いました.

今から思い起こすと,バドモアとティル・フェルナーのコンビは,バドモア本位で,フェルナーにはいささか気の毒だったと思い出されます.
なお,マーラー歌曲のオーケストラ版は,2012年3月の都響定期で,インバル指揮で「亡き子をしのぶ歌」と「大地の歌」が予定されています,ご参考までに.
 


 


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