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オペラシティ:アヴデーエワ・ピアノ・リサイタル [音楽時評]

昨年のショパン・コンクールの覇者,ユリアンナ・アヴデーエワのピアノ・リサイタルを聴きに行ってきました.今春,ガラ・コンサートでショパンのピアノ協奏曲を聴きましたが,リサイタルは初めてでした.

プログラムは,
ショパン:   舟歌 嬰ヘ長調 op.60
ラヴェル:   ソナチネ
プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ2番 ニ短調 op.14
             ※※※※※※※
リスト:     悲しみのゴンドラⅡ
 々 :     灰色の雲
 々 :     調性のないバガテル
 々 :     ハンガリー狂詩曲第17番 ニ短調
ワーグナー(リスト編)オペラ《タンホイザー》序曲
でした.

最初の「舟歌」で,まず十二分にこの人の豊かな音楽性に触れることが出来ました.
この曲は,彼にとっては既に晩年.36歳の時の作品で,ショパンの最高傑作という呼び声も高い名曲です.ピアノ独奏の大曲としては「幻想ポロネーズ」と共に最後の作品になります.波とゴンドラの揺れを思わせる伴奏型が特徴で,船歌は通常8分の6拍子ですが、船がゆったりとたゆたうイメージを表現するために、ショパンはあえて8分の12拍子を指定したといいます.
既にジョルジュ・サンドとの別離も近づき,体調も芳しくない方向に向かい、経済的にも逼迫しつつあった時期で,これ以降は作曲作品数が激減に向かっています.
この曲の初演はショパン自身によってパリで行われ、楽譜上はフォルテシモと表記されているコーダを、消え入るようなピアニシモで弾いたといわれますが,アヴデーエワは両手のオクターブでしっかりと曲を閉じました.

ラヴェルのソナチネは,古典派時代に使われた作曲形式を20世紀に復活させたモノで,Ⅰ.modere Ⅱ.Menuet, Ⅲ.Anime(いずれもアクサンテーギュ等を省略)の3楽章構成でした.短い曲のなかに,ラヴェルらしい多様性が盛り込まれていました.

プロコフィエフのソナタ2番は,1番が1楽章構成で終わっていますから,最初の古典的な4楽章の本格的ソナタといえます.急-急-緩-急で,構成は古典的ですが,和声とリズムの扱いが大胆で,ちょっとオドケタ雰囲気を持ったプロコフィエフらしい個性的な作品でした.ここでもアブデーエワは的確にプロコフィエフを描ききっていました.

後半は.今年のリスト生誕200年に因んで,リストの作曲作品を4曲と,ワーグナーの序曲のリスト宴曲版を聴かせてくれました.
「悲しみのゴンドラ」はリストの娘でワグナーの妻となったコジマとのこともあって,友好関係にあったワグナーとヴェネツィイア滞在中に,ワグナーの死を予感しながら作曲したといわれるエレジーです.
「灰色の雲」は,リストが不協和音を中心的に扱ったり,フエルマータの扱いに独自性を持った作品ですが,最晩年に作曲されて,寂寥感に溢れた曲になっています.
「調生のないバガテル」も最晩年の作品ですが,公然と無調性を掲げた先駆的作品です.ただ,この名称は副題で,正式には「メフィスト・ワルツ第4番」となっており,悪魔の音程として使われたモノといえます.
「ハンガリー狂詩曲17番」は,ハンガリー語をほとんど話せないながらもハンガリー人意識を持っていたリストが作曲したハンガリー狂詩曲19曲の晩年の1曲で,19曲を通じていわれる前半と後半の明確な正確の違いはここではほぼ影を潜め,哀愁を帯びた曲想が全体を支配しています.
アブデーエワは誠に的確に,かつ叙情性豊かにこれらを好演してくれました.

タンホイザー序曲のピアノ編曲版は,ある意味で超絶技巧を駆使した演奏を要求する曲ですが,アブデーエワは,誠に鮮やかかつ確実にテクニックを発揮して絢爛豪華に締めくくってくれました.

マルタ・アルゲリッチ以来45年振りの女性Compepitition 優勝者といわれるにまことに相応しい,堂々たる名演奏を繰り広げてくれたと思います.来年も,また,ぜひ来日して欲しいモノです.

 


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