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サントリーホール:五島みどりリサイタル [音楽時評]

6月20日,サントリーホールに五島みどりのデュオ・リサイタルを聴きに行ってきました.五島みどりとピアノのオズがー・アイディンのデュオでした.まことに絶妙のコンビだったと思います.

プログラムは,                                                                   モーツアルト: ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ト長調 K.301                                   ヤナーチェク: ヴァイオリンとピアノのためのソナタ                                            ラヴェル:     ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ト長調 
       ※※※※※※※※   
サッリネン:   4つのエチュード op.21
ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第9番イ長調 op.47《クロイツエル》
でした.

五島みどりの使用ヴァイオリンは,社団法人林原共済会から終身貸与のガルネリ・デル・ジュス「エクス・フーベルマン」(1734年作)だそうでその柔らかい美麗な音にはいつもながら魅了されます.

五島みどりが書いたProgram Note 抜粋がプログラムに掲載されていましたが,                      

モーツアルトは,第1楽章: Allegro con spirito,第2楽章: Allegro で 鍵盤楽器とヴァイオリンを初めて対等な立場において作曲しており,サロンや家庭内で演奏できることを考えて,2楽章構成です.フルートで演奏されることも多いといいます.きわめて親しみやすい,ガルネリの美音も加わった和やかな曲でした.

ヤナーチェクのヴァイオリン・ソナタは、彼の器楽曲の中でも演奏される機会の多い作品の一つで、1914年に最初のスケッチができ、いくつかの改訂を経て、1921年についに完成されたものです。4楽章から構成される曲で、第一次世界大戦の暴力や不安定な状況をほのめかしています。彼女の解説の訳文を引用しますと,第1楽章: Con moto
第2楽章: Ballada:Con moto,第3楽章: Allegretto,第4楽章: Adagioで
第1楽章は、con moto(動きをつけて・速めに)と表記されており、ヴァイオリンの序奏的な大胆なソロで始まり、すぐに最初のテーマが現れます。この楽章は全体的に、断片的な謎めいた主題が長いフレーズと絡み合って構成されています。楽章が終わりに近づくに連れ、緊張感が増しますが、最後には意外にも心地よい変ニ長調の和音で静かに終わります。
第2楽章のBallada(バラード)は、単純で優しい感じのする楽章です。このソナタの中では最も抒情的な楽章で、音符が次から次へと自然に流れていくようです。楽章の終盤に向かうところで、即興的に不安な要素が現れ、牧歌的で平和な雰囲気を乱しますが、すぐにこの楽章を支配する平穏さが戻ってきます。
第3楽章のAllegretto(やや速く)は、スケルツォ(軽快で諧謔的な3拍子の曲)です。この楽章は3つの部分から成り、最初と最後の部分は、同じ題材を取り扱っており、ざわめくような連続的なトリルをバックに、ピアノが民族音楽の旋律を短く弾むような音で奏でます。これに対し、ヴァイオリンは、断続的に鋭い音で半音階を弾き、妨害します。中間部は、見せかけのロマン主義を思わせる雰囲気が漂います。
最終楽章のAdagio(遅く)は、このソナタの中で最も狂想曲的な楽章です。ピアノの心に迫る旋律を鋭くさえぎるように、ヴァイオリンが、攻撃的に、しばしばミュート(弱音器)をつけて短いフレーズを奏でます。このヴァイオリンによる連続的な妨害が、この楽章の主要なモチーフです。この主要なモチーフに挟まれるようにして、2種類の対照的な雰囲気をもつ旋律が現れます。一つは人生の希望と熱望に満ち溢れた明るい陽気な旋律で、もう一つはロシアの自由軍がモラヴィアに進軍してきたことをヤナーチェクが描いたものです。この作品は、必然的に起こる惨事から逃れられないという緊迫感がどんどん増していく雰囲気の中で、主要なモチーフが音量的に弱まり、消え入るように終わります。

ここでも,ガルネリがサントリーホール全体によく透き通るように響いて,たいへんな好演でした,ピアノが実にぴったありと寄り添っていたのが印象的でした.五島みどり+アイディンの組み合わせは初めて聴きましたが,これまでのレコーディングのマクドナルドよりもピッタリ合った印象を受けました.

ラヴェルは,第1楽章: Allegretto,第2楽章: Blues: Moderato,第3楽章: Perpetuum mobile: Allegrettoで,
この作品は健康状態の悪化でなかなか進まず、完成されるまでに4年を要しました。その頃には、ラヴェルは印象主義から離れ、もはやその影響が作品に色濃く出ているわけではありませんが、この作品の中にも深く刻み込まれた印象派のスタイルがくっきりと姿を現している部分が少なくありません。2つの楽器の関係について、ラヴェルは「ヴァイオリンとピアノという2つの根本的に相容れない楽器のためのソナタを書く場合、それらの性質の違いに安定をもたらすのではなく、独立性を認め、融和しがたい要素を強調することが大切であると考えている」と述べています。
第1楽章のアレグレットは、典型的な古典形式で書かれており、ロマンティックな色合いのそよ風のような雰囲気を醸し出すピアノのソロで始まります。優雅で、威厳があり、かつ官能的で、とどまることなく音楽は流れていきます。ヴァイオリンとピアノの両者が主要なテーマを交互に奏で、このテーマを構成する対位モティーフは曲全体に何度も登場する印象的なものです。
ブルース:モデラートと表記された第2楽章は、複数の調が織り交ぜられ、表記が示すとおり、ブルースの影響を強く感じさせる楽章です。複調性は、楽器ごとに違った調性を与える作曲法の一つで、それぞれの楽器に特徴を持たせるために用いられます。複調性を使うことで、ラヴェルが伝統的な形式の中で何か新しい試みをしようとしているそぶりが窺えます。また、ブルース形式の構成要素は、この楽章に陰鬱な影を与えています。ここでは、彼は1920年代に盛んだったブルースのメロディーを引用しています。テーマはサクソフォーンのような音でスライドするか、物憂げな低い声でささやくように、奏でられます。ヴァイオリンは、鼻にかけたような音を作り出すのに、ゆっくりとした上昇音階を奏で、上りきるとエキゾチックな様相を呈します。
華々しい最終楽章は、ペルペトゥム・モビーレ(始めから終わりまで同じ速度で)と表示されており、ヴァイオリニストの技量が限界まで試されるような楽章です。第1楽章の始めに置かれた印象的だったモチーフが、燃え立つように16分音符の中で輝き意気高揚とした終焉に向かっていきます。
と最後の盛り上がりがたいへん見事に引き出されていました.

サッリネンの4つのエチュードは,とてもあっさりした小品の集合体でした.

ベートーヴェンについては,解説を引用するまでもありませえんが,今夜の圧巻だったと思います.
盛大な拍手に答えて,ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」が,たいへん優雅に好演されました.

今回のツアーでは,沖縄から入って,6月12日には福島でも演奏会を開いたようで,プログラムが2つ折りの抜粋になっていたのも頷けるツアー内容でした.11日間で9回のリサイタルは,かなりの強行軍だったのではないでしょうか.彼女のいっそうの自愛と,さらなる活躍を期待したいと願ってやみません.


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