トッパンホール:マーティン・ヘルムヘン(pf)リサイタル [音楽時評]
4月30日,トッパンホールにドイツのマーティン・ヘルムヘンのピアノ・リサイタルを聴きに行ってきました.不勉強で初めて聴いたピアニストですが,その素晴らしさに圧倒されました.
何といっても明快なピアノ・タッチと高度のテクニックが基本にあって,音量の幅を広く使い,アクセントを含めた明快なリズム感で,構成力豊かに曲を描き出して聴かせる素敵なピアニストです.
プログラムは,ベートーヴェンの大曲「ハンマークラヴィーア」を中心に, バッハ: パルティータ第1番 変ロ長調 BWV825 シェーンベルク: 6つのピアノ小品 Op.19 メンデルスゾーン: 無言歌集 第6巻 Op.67
Ⅰ変ホ長調 《瞑想》, Ⅱ嬰へ短調《失われた幻影》,Ⅲ変ロ長調《巡礼の歌》, Ⅳハ長調 《紬歌》, Ⅴロ短調《羊飼いの嘆き》,Ⅵホ長調《子守歌》 ※※※※※※※※ ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第29番 変ロ長調 Op.106 《ハンマークラヴィーア》
でした.
明快なピアノ・タッチと軽快なリズムは,バッハのパルティータをたいへん新鮮な響きで聴かせてくれました. 次のシェーンベルクでも,6つの小品が鮮明なピアノで演奏されて,バッハとシェーンベルクの差違を明快に示してくれました. メンデルスゾーンは,全8巻,46曲から成る《無言歌集》を残しています.小品を連ねたピアノ曲集の系譜の中期に位置するといえるのでしょうが,名手の演奏でたいへん心地よく聴けました.後から命名されたのでしょうが,最後の《子守歌》は絶品でした.
後半の大曲《ハンマークラヴィーア》はまことに圧巻でした. 喜びに溢れたファンファーレで始まるソナタ形式の第1楽章Allegroは,この人の鮮明なピアノ・タッチと研ぎ澄まされたリズム感で,第1主題と第2主題の対比が鮮明に示され,展開部のフーガは再現部を経てもう一度展開部になり,充実したソナタを示していました.第2楽章Scherzo,Assai vivace はスケルツオですが,中間部ではリズムが変化しています.大曲のなかでも長大な第3楽章Adagio sostenuto は,ピアノの持つ表現能力の可能性を極限まで追求しているといわれますが,低音から高音までの幅が一段と広がって,たいへん豊かな楽章を構成しています. 第4楽章Largo-Allegro risoluto は,幻想曲風の序奏と、3声のフーガ、コーダから成っており,この内容豊かな曲が,ドラマティックに閉じられます.
とにかくヘルムヘンの確かなテクニックと豊かな表現力にすっかり堪能したマチネーでした.
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