SSブログ

東京文化会館小ホール:高木綾子レクチャーコンサート [音楽時評]

1月14日,上野の東京文化会館小オールに,高木綾子のレクチャーコンサートを聴きに行ってきました.season 20102011は「祖国への愛」シリーズで,今夜が4回目「故郷への讃歌」でしたが,高木さんが一番この総合テーマに忠実にレクチャーコンサートされたと思います.

今夜のプログラムは,                                               ドップラー: 愛の歌 Op.20                                                                         バルトーク: ハンガリー農民組曲                                         カゼッラ:  シシリエンヌとブルレスケ                                                ※※※※※※※※                                                                                 イサン・ユン:歌楽                                                        福島和夫:  冥                                                          コープランド:デュオ                                                でした.

ここでは,ハンガリー,イタリア,韓国,日本,アメリカを取り上げて,広く「祖国への愛」を追っています.                                                         昨年は「ショパン」年で,フランス人の父親とポーランド人の母親のもとに生まれ,祖国が列強に分割支配されて地図上からポーランドが消滅して,宗主国ウイーンを経て,父の祖国フランスへ渡り,フランス人と事実婚関係を作ったショパンとの関わりで祖国愛が強調されるのに,そこはかとない違和感を感じたのですが,ここに取り上げられた6人は,間違いなく「祖国への愛」と関わる曲を書いた人達です.                         

何よりもここまで自由自在によくも見事にと思わせるほど,高木綾子さんのフルートは絶品でした. 余談ですが,私が彼女を聞いたのは,いつだったか思い出せないのですが,NHK交響楽団の首席に代役で座っていた時でした.N響のプログラムに何も書いてないので,あれだけの人を代役に迎えているのなら,プログラムに折り込みを入れるべきだとN響にモノ申したのを覚えています.

ドップラーは,今夜アンコールで前半部が演奏された「ハンガリー田園幻想曲」がたいへんフルートの名曲として有名ですが,今夜の「愛の歌」も,ドップラーならではの変奏曲で,たいへん華麗な曲でした.

バルトークの曲は1914~18年頃に書かれたピアノ曲集ですが,民謡に収集に熱心だった彼らしく民族性豊かな曲集で,後に彼の弟子のパウル・アルマによってピアノとフルート用に編曲されたモノだそうで,オリジナルな15曲が14曲として編曲されたものです.いかにも民族性豊かな曲集でした.

カゼッラのシシリエンヌとブルレスケは,現代音楽の基礎になったイタリア音楽の発展を反映した曲で,1914年の作品,前半はシチリアーノはメランコリックなメロディ,ブルレスケは軽快で激しい音楽でした.

プログラム後半のイサン・ユンは,日本の植民地であった朝鮮に生まれ,日本で作曲を学んだ後,朝鮮に帰りますが,反日運動の嫌疑で逮捕され,第2次大戦,朝鮮戦争を経て,1956年韓国からパリに留学,翌年ドイツに移りますが,韓国版CIAによって韓国に拉致され(東ベルリン事件として知られる),その後ベルリンに戻って作曲家,教師として活動した異例の人物です.1963年に作曲されたGARAK は韓国の伝統音楽と20世紀的前衛手法を織り交ぜたモノで,現代フルートにノン・ビブラート的対応を求めた技術的難曲ですが.高木さんは息の吹き方の工夫で対応していました.

福島和夫は,武満徹と交流のあった現代作曲家ですが,彼はフルートに尺八的な音を期待しており,これも高木さんは息の量を調節して尺八的な音を生み出していました.               いずれも祖国への愛に裏付けられたモノというべきでしょう.

コープランドの曲の場合,アメリカのジャズ的なモノがふんだんに取り入れられた曲でした.最近,クロス・オーバーという言葉でアメリカ・クラシックの変容を表現されますが,この1971年の作品はその先駆けともいえる曲でした.

先にも書いたアンコールとして演奏されたドップラーの「ハンガリー田園幻想曲」の前半部分は,フルートの力をフルに活用,発揮した見事な名演でした.

高木さんの語りは,頭の良い人らしく,実によどみない,しかし決して焦点を外さない名調子でした.この5回シリーズの4回目でしたが,一番強く印象に残りました.

 

 


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。