JTアートホール:希望の星,南(vn),上村(vc),坂野(pf) [音楽時評]
7月1日,JTアートホールにJTが育てるアンサンブルシリーズNo.51を聴きに行ってきました.出演者はタイトルに書いた3人,南紫音vn,上村文乃vc,坂野伊都子pf でした.
プログラムは, サン=サーンス: ヴァイオリン・ソナタ第1番 ニ短調 Op.75 vn&pf ラヴェル: ヴァイオリンとチェロのためのソナタ vn&vc
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メンデルスゾーン: ピアノ三重奏曲 第1番 ニ短調 Op.49 でした.
プロデューサーの原田幸一郎さんがプログラム・メッセージで,「アンサンブルより個人技を主体とした室内楽です」と書いておられました. そして,3曲とも演奏に加わった南紫音さんが,実に簡にして要を得たプログラム・ノートを書いていたのがたいへん好感を持てました.
サンーサーンスではヴァイオリンの個人技が焦点でしたが,南紫音さんのヴァイオリンは素晴しい音楽性と技巧を発揮して,2楽章ではあっても,各楽章の前半・後半が趣を異にして,実質的に4楽章構成といってよい曲を素敵に好演してくれました.
次のラヴェルは,ドビュッシーへの追悼に書かれた曲に楽章を加えて,4楽章の本格的なソナタにしたものでしたが,ラヴェルは自分の転換点になった曲といっていたそうで,彼の従前の曲と趣を異にした曲で,この比較的珍しい組み合わせから,ハーモニーを切り捨て,音楽そのものをむき出しにした鋭い緊張感の漂う曲でした.ピチカートが多用されていました. 1楽章は簡潔なソナタ形式,2楽章にはハンガリー民族音楽の旋律が取り入れられ,3楽章は憂鬱な感じのレント,フイナーレはハンガリー風で活気に満ちた楽章でした.たいへん面白く聴けました.
最後のメンデルスゾーンは,ピアノトリオの名曲ですが,1楽章はダイナミックな展開を見せ,2楽章はしみじみした緩徐楽章,3楽章が軽やかなスケルツオ,そして,スケールの大きな生き生きしたフィナーレで締めくくられました.何度聴いてもよい曲でした.南紫音さんの解説では,メンデルスゾーンがピアノの名手であったことを示す華麗なピアノ・パートと述べていましたが,ピアノもたいへん好演していました.
今夜の演奏は,このJTのシリーズでも傑出した出来だったと思います.上村文乃さんのチェロが全開のピアノにかぶせて朗々と美しい音を響かせていたのもまことに印象的でした.
これからの3人のいっそうの活躍が望まれます.
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