トッパン:清水和音ブラームスProject2 [音楽時評]
9月26日,トッパンホールに清水和音ブラームスProject2を聴きに行ってきました.
出演者は, Piano: 清水和音 Violin: ダニエル・ホープ Viola: 赤坂智子 Cello: ポール・ワトキンス 使用楽器;1846年製ヴィヨーム
という錚々たるメンバーでした.
プログラムはオール・ブラームスで, ピアノ四重奏曲第3番 ハ短調 Op.60 ※※※※※※※※ ピアノのための6つの小品 Piano Solo
ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 Op.25 でした.
事前のチラシではピアノ四重奏曲が番号順に並んでいたのですが,演奏者の希望でということで,番号順は逆になっていました.これは第1番の方がよく演奏されて,多くの聴衆に知られているという事情を考慮したモノだと思います.
ピアノ四重奏曲第3番は,着想されたのは第1番より前の1845年頃だったそうですが,時期が恩師シューマンのライン側への投身自殺未遂,長期入院の末の死,一生続いたクララへの思慕といった出来事の重なりもあって,完成は20年後の1875年といわれます.ブラームスの悩みは「若きウエルテルの悩み」に通ずるモノがあるとして,この曲を「ウエルテル四重奏曲」と呼ばれることがあるそうです. そんな事情から察せられるとおり, 第1楽章では悲痛な第1主題と叙情味溢れた第2主題が使われ,後者は変奏されており,展開部が2部構成で2部がカノンになっています.簡潔なスケルツオ楽章を経て,初めに着想された当時の嬰ハ短調で,深みのある情感を湛えた第3楽章に続いて,第4楽章フィナーレはソナタ形式で,充実した展開部を経て,盛り上がりを形成しています. 4人の奏者がいずれも芸達者で,まことに充実した演奏を聴かせてくれました.
休憩後,ピアノのソロで,ブラームス晩年の心情が籠められた「枯淡」といったピアノ音楽が6曲,流麗にしかし淡淡と演奏されました.とりわけ第3曲のバラードは耳元に残っていた美しいメロディを含んでいました.
ピアノ四重奏曲第1番は,前に何度か聴いたことのある名曲ですが,全楽章を通じて,悲哀感と情熱感が交錯した,しかし沈んだ感じのなかに美しいメロディを散りばめた,いかにもブラームスらしい曲が,4人の達者な奏者によって情熱的に演奏されました.
よくこれだけの人材を揃えてと思ったほど,まことに充実したブラームスProject の一齣でした.
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