東京春音楽祭:N響メンバーによる弦楽四重奏 [音楽時評]
3月8日,国立科学博物館日本館講堂に,N響メンバーによる弦楽四重奏を聴きに行ってきました. N響メンバーは, 第1ヴァイオリン:山口裕之 第1コンサート・マスター 第2ヴァイオリン:宇根京子 ヴィオラ: 飛澤浩人 次席代行 チェロ: 藤村俊介 次席代行 と,N響の中でも桐朋学園をいろいろな時期に卒業したトップクラスのメンバーでした.宇根京子さんが一番若かったようです. このメンバーで,昨年,チャイコフスキーをテーマとしたこの音楽祭で,初めて同じ会場に出演したそうです. N響メンバーのクァルテットは,他にも固有名詞をつけたものが2,3ありますが,このメンバーのものを聴いたのは,初めてでした.
プログラムは, ヴォルフ: イタリア風セレナード ト長調 モーツアルト: 弦楽四重奏曲第14番 ト長調 K.387 《春》 ※※※※※※※※ ベートーヴェン: 弦楽四重奏曲第9番 ハ長調 op.59-3 《ラズモフスキー第3番》 でした.
このクァルテット,素晴しい弦楽四重奏を演じてくれました. ヴォルフは単一楽章の短い曲でしたが,4つの楽器の音が常に聞えてくる優れたアンサンブルで,叙情性豊かに好演してくれて,これはたいへん優れたクァルテットだと実感しました. クァルテットで比較的目立たない第2ヴァイオリンも,とかく音が籠もりやすく聞えにくいヴィオラ,チェロも実に良く鳴って,非常によいバランスを保っていました.
その優れたアンサンブルで,モーツアルトではよく聴かれる彼の中期の傑作K.387 「春」の急,急,緩,急の4楽章を,たいへん綺麗な音を重ね合わせて,非常に優美に,見事な演奏で,聴かせてくれました.とくに第3楽章のアンダンテ・カンタービレは,美しい演奏でした.
べートーヴェンの「ラズモフスキー第3番」も大作曲家の名作中の名作ですが,出だしから緊張感をたたえて,まことによくバランスの取れた4つの楽器,4人の奏者のしっかりしたアンサンブルで,この交響的構成力を持った名曲を,一気呵成に名演奏してくれました.
私はかねて,常設クァルテットの場合はとかく惰性に流れやすく,自分たちの身の丈に収めてしまいやすいことから,オーケストラ・メンバーの兼業としてのクァルテットの勧めを書いてきましたが,今夜のこのクァルテットは,多くの優れた指揮者に鍛えられてきたまことに良い成果を示していました. アンコールとして,昨年初めて同じ会場でチャイコフスキーを弾いて,それから1年,今夜を目標に練習してきたといって,昨年の出発点のチャイコフスキーの有名な「アンダンテ・カンタービレ」を本当に綺麗に優美に聴かせてくれました.
来年もぜひまたこの顔ぶれで優れた演奏を聴きたいと期待します.
コメント 0