シャネル・ピグマリオン・コンサート:寺内詩織(vn) [音楽時評]
4月4日,今年から抽選申し込み制に変わって,やっと当選したシャネル・ピグマリオン・コンサートに行ってきました. ヴァイオリンは寺内詩織さん,ピアノ伴奏が島 留美さんでした.
プログラムは, モーツアルト: ヴァイオリン協奏曲第5番 イ長調 K.219 「トルコ風」より第2楽章 ブラームス:ヴィアオリン・ソナタ第3番 ニ短調 作品108 ※※※※※※※※ シベリュース: ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47 でした.
第1曲目ですが,ヴァイオリン室内楽作品がたくさんあるのに,ヴァイオリン協奏曲の第2楽章だけという選曲が頷けませんでした.曲はモーツアルトの5曲のヴァイオリン協奏曲では最も良く演奏されるものですが,その第2楽章,緩徐楽章を,たいへん素直に正確に弾いてくれました.とにかく楽譜をこなすことに集中していて,ミスはありませんでしたが,ほとんど個性を感じられませんでした.
ブラームスのソナタも急-緩-急の3楽章を凄く慎重丁寧に弾いてくれました.良く弾けていましたが,自分らしさを示すところがありませんでした.第3楽章はかなり情熱的なところがありますが,演奏は慎重に過ぎました.
最後のシベリュースのヴァイオリン協奏曲は,ヴァイオリンが管弦楽と向き合って演奏されると盛り上がるのですが,ピアノ伴奏ではモノ足りないところがあります. 第1楽章の重厚なオーケストラの響きと向き合ったヴァイオリンの魅力,スケール感が十分には聴かれませんでした.第2,第3楽章ともきわめて慎重で,とくに第3楽章の終結に向かう部分は未だ十分こなれた演奏にはなっていませんでした.
私は,寺内さんの昨年の日本音楽コンクール(3位入賞)でのブラームスのヴァイオリン協奏曲を思い出すのですが,とにかく弾くのに懸命だったことが思い出されます.今日のシベリュースについても弾くのに精一杯の感じを拭えませんでした. なぜ最初に自分らしい演奏の膨らみを作ることに専念して,ここでは堂々と譜面台を置いて演奏しなかったのだろうと思いました.はじめから暗譜に時間を使わずに,演奏を豊かにすることに努力して欲しかったと思うのです.どこかに演奏機会を得て,それに備えているのだとしても,譜面台を置くことを恥じる必要は全くないと思います.近頃の大家の中に,暗譜に無駄な時間を使いたくないという人が増えていることを知って欲しいものです.
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