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【論説】地方自治体芸術文化助成の正当性問題 [論説]

「季刊家計経済研究」という研究所機関誌がありますが,その2008年夏号が「文化と生活」を特集しています.

そのなかから,興味深い結果を拾って紹介し,私がこれまでの論説で展開した地方自治体の芸術予算削減賛成論を補強したいと思います.

4面舞台を持つ「びわ湖ホール」は,「県民に国際水準の芸術に触れる機会を提供する」と唱っていますが,本当にそうでしょうか.
国際水準のオペラは,4面舞台などなくても,東京文化会館でもまつもと市民芸術館でも十分提供できることは既に十二分に実証済みです.そしてびわ湖ホールで国際水準のオペラ芸術が提供されたことがあったとは寡聞にして聞いておりません.

年間11億円を超える助成金が滋賀県の重い負担になっていますが,滋賀県民でその恩恵に預かった人はどのくらいいるのでしょうか.もちろん芸術文化には外部効果があり,ハイカルチャーの存在は県民の誇りであり,関西圏や全国から観客が集まることでそれなりの経済効果も期待できるといわれます.

しかし,そんな曖昧なことで11億円超を支出することは妥当でしょうか?今回大幅削減が見送られた背景に,全国から反対署名が集まったとありますが,滋賀県民税を全国のために支出するメリットがいったいどこにあるのでしょう!
もっと滋賀県は1点豪華主義のびわ湖ホールの利用実態を明らかにし,ホールが国税より幅広く賦課される県民税に見合って本当に滋賀県民に幅広くほぼ満遍なく再現芸術に触れる機会を提供しているのかを実証すべきです.
それが出来なければ,11億円超を支出する正当性は失われるからです.

上記の研究機関誌の推計では,1985年から2005年にかけてのライブ鑑賞のための入場券購入頻度は114回から153回へと35%の増加にとどまっており,この間に入場料は2,857円から6,655円へと約2.3倍増に達しています.そのため,全体として,実演活動への支出はバブル崩壊の1993年をピークに大幅な減少に転じていると報告されています.

この実演文化施設への支出は,人口15万人未満の市で158.0円,それ以上の都市では834.5円と顕著な地域格差があり,さらに重要な点として,世帯の経済的属性でフローとストックの所得が高いほど実演文化施設支出が高くなるという文化施設利用の顕著な所得格差が確認されています.
それとほぼ重複しますが,クラシック音楽の鑑賞行動者率は,教育水準が高いほど高い傾向があり,年代別には,世代が新しいほど行動者率は低く,また加齢と共に低下傾向が見られています.

繰り返しますと,実演芸術への助成金支出は,地域格差および所得・教育階層格差,年齢格差を緩和する努力と並行するのでなければ,公金支出の正当性を持たないというべきです.
音楽芸術が,ヨーロッパのように,文化として地域住民に定着していないところで,綺麗事で行われる借り物のアウトリーチなどには,ほとんど意義を認められません.(この分析は,上記研究誌のpp.47~54, 宮本直美著,「文化政策における『芸術』と『ポピュラー文化』」によるところが大きい)

一部の地方大都市がやっている国際コンクール(たとえば大阪の弦楽四重奏,仙台のピアノや弦楽)も,その優勝者が自分のプロフィールに書くことがないような地域的伝統や結びつきのないコンクール(それがあるとすれば浜松市ぐらいでしょうか)を地方自治体予算で賄うのは,一部自治体のハイカルチャーへの自己満足に過ぎません.
そのミニチュアは,中小都市が若手新人演奏家育成と称して開催する新人演奏会に見ることが出来ます.たとえば千葉県市川市のそれは,出場資格を関東一円に拡大しています.日本にはいったいどれだけの俄作りのアートマネジャーやいい加減な審査員がいることでしょう!
たとえば2007年の日本音楽コンクールの弦楽部門で驚くべき採点が行われたのを見ても(それでも衆目の一致する実力者が優勝したのですが),日本はそもそも音楽コンクールをやるにはまったく不適切な国だと強く感ずるものです.

それは音楽産業家に踊らされて全国の中小都市にまで普及した公私の箱物(たとえばバッハホール)の利用法として,箱物負担を作った音楽産業家仲間がさらに売り込んできたに過ぎません.
4面舞台を売り込まれた滋賀県は,それを売り込んだ非常識な音楽産業家に損害賠償を求めてしかるべきではないでしょうか!

前に論じたことのある大阪センチュリー交響楽団について,補助金削減反対運動では,いかに「心の豊かさ,ゆとり」に寄与してきたか,「文化は大切だ」といった曖昧な綺麗事の議論が中心になっています.
しかし,大阪に4つあるオーケストラのうち,大阪府からの補助金額は2007年で,大阪センチュリーが4億2,000万円,大阪フィルが6,800万円,大阪シンフォニカーと関西フィルが100~150万円と大きな格差があります.
補助金の少ない楽団は自力で集客力アップの努力をしてきたのに,補助金の大きい楽団ではその努力を怠っており,音楽愛好家にとって大阪センチュリー楽団自体が魅力的でなくなってきたといわれます.
それは,文化的創造力を支援する助成が,結果的にその逆機能を果たす可能性を示唆しています.

再現芸術というハイカルチャーは,再現し続けなければならないとしたら,ポピュラー文化がなお活発な文化活動を展開していることに見習って,ポピュラー文化化することが一つの可能性を拓くであろう,と冒頭の研究誌では論じられています.しかし,日本の利己主義本位のクラシック音楽産業にそれを期待できるでしょうか!

なお,大阪シンフォニカーについて前に書いたことがありますが,積極的に本拠を大阪市から大阪府のもうひとつの大都市堺市に移し,かつ有力スポンサーを斜陽化した三洋電機から大和ハウスに変更し,新たにヨーロッパから有望指揮者児玉宏を音楽監督に迎えて,今年からたいへん意欲的な曲目を掲げて積極的な活動を展開しています.
また,大阪フィル+大植英次コンビの目覚ましい活動振りは,その集客力と共につとに知られている通りです.

東京では親方日の丸で肥大化したNHK交響楽団(一度経済不況でなくなったはずの「フィルハーモニー」という音楽雑誌を,再び不当に抱き合わせ販売している)が音楽監督をケチって居座っているようですから,新たな展開は何も期待し難いのでしょうか!

再現芸術のメディア媒体の著しい発展,録音のみならず録画技術の飛躍的向上普及を考慮すれば,再現芸術はもっともっと安上がりで,中高校生でも高齢者でも気軽に箱物に行けるものにすべきでしょう.
序でにいいますと,ほとんどの演奏会プログラム解説が独りよがりで,読みづらく,しかもミスが多いのを抜本的に是正するよう,解説は原則,出演者が書くようにし,解説集をネット上にプールしてその都度再現者に併せて書き足すように簡略化を図り,再現芸術家の収入アップにつなげるようにすることを再々再度の提案としたいと思います.

芸術文化への助成金,メセナ,税制優遇などが,不必要に拡大した再現芸術家周辺の,俄作りのNPOを含む,音楽産業に吸収されない体質への転換を,切に期待したいと考えます.

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たぬま

大阪国際室内楽コンクールは読売が主催では???
by たぬま (2017-05-20 10:44) 

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