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【論説】びわ湖ホール問題:音楽産業と地方自治体 [論説]

「びわ湖ホールは、国内有数の4面舞台を備えた大ホール、演劇向けの中ホールや、アットホームな小ホールを備えています。隔年夏に開催する「びわ湖ホール夏のフェスティバル」では、リハーサル室やホワイエなど、ホール全体を使っての身体表現をテーマとした催しが開催されるなど、美しい湖畔にたたずむホールは、今日も、観客の皆様をはじめ、出演者の方に舞台芸術の魅力をあますところなくお届けしています.」

これがびわ湖ホールの宣伝文句です.
しかし,このびわ湖ホールの来年度予算削減を巡って,滋賀県が揺れていることが報じられています.

私は,これは,わが国の地方自治体のいわゆる箱物行政に便乗した「わが国音楽産業」の問題点として捉え直すべきではないかと考えます.これほどのホールが音楽関係者を抜きにして建てられたとは考えがたいからです.

先日,沼尻びわ湖ホール芸術監督兼日本フィル正指揮者によるマエストロ・サロンに行ったのですが,そこで沼尻さんは,事も無げに,白版にびわ湖ホールの位置を書いて,集客圏が等距離圏(円)の琵琶湖の反対側の半円にしかないため集客力が不足しているからだと説明してくれました.
しかし,それが分っていながら「国内有数の4面舞台を備えた大ホール」をいったい誰が滋賀県に売り込んだのでしょう.
滋賀県がまったく独自にそんなホールを作ったとは到底考えられないのです.音楽家,音楽ジャーナリスト,音楽産業関係者が一斉に売り込んだに違いないのです.1998年開館前の計画段階で,今思えばいわゆる「失われた10年」に未だバブル崩壊は一過性と考えた連中が計画を押し込んだに違いありません.

そもそも4面舞台を備えた大ホールを新幹線の駅もない滋賀県が作る必要性がよく検討されたとは到底思えません.
夏にびわ湖ビエンナーレをやったり,日本初演のオペラをやっていくつも賞をとったとありますが,そんなビエンナーレやオペラを誰が見たのでしょう.われわれはこの種の賞の恣意的配分には飽き飽きしています.
滋賀県民がそれで投下資金に見合って文化的に潤ったのでしょうか!
かつて小澤征爾の新国立劇場関与を排斥した東京の声楽家が,びわ湖ホールで合唱団を育成し,東京公演をやっているようですが,そんな練習場にしてはあまりに過大に過ぎます.

その後名古屋市や基地の街横須賀市が同様の4面舞台を備えた大ホールを作り,滋賀県に近い兵庫県に自前の管弦楽団を持った兵庫芸術センターが作られ,東京にもオペラ目的の新国立劇場が出来ましたから,「失われた10年」に作られたびわ湖ホールの意義はどんどん薄れてしまったではありませんか!
その新国立劇場でさえ,元歌手が初代の音楽監督を占めたため,ヨーロッパでは当たり前の歌劇場専属管弦楽団が育成されないまま,半端な歌劇場にとどまっています.びわ湖ホールのように県内にオーケストラ・ピットに入る管弦楽団もないまま作られたよりはまあまだマシですが!

バブル経済に乗って,あるいはそれが崩壊後も豊かな日本を唱って作られた箱物行政は,その大半の責任は地方自治体によりも音楽家,音楽ジャーナリスト,音楽産業関係者にあったというべきです.

地方自治体の責任は,県民や市民に本来均等に配分されるべき租税収入を,ごく一部,せいぜい3%の音楽フアン県民,市民のために使うべきか否かの検討を怠ったことにあります.最善の選択は多目的ホールにあった筈です.
当面,滋賀県の考え方は,半年間びわ湖ホールを休館にして,必要経費を節減したいということのようですが,4面舞台を備えた大ホールは相当数の専門技能者を必要とすると考えれば,半年休館して残りの半年だけそれらの人を確保できるのかという問題になります.
それは職能別労働組合のほとんど存在しない日本では無理な相談だと思われます.

そうだとしたら,むしろ,さっさと租税負担を皆無にする決着を図るべきではないでしょうか?それで失われる初期投資の巨額負担は,常識的に無謀な案を売り込んだ音楽関係者に賠償を求めることで少しでも埋め合わせることを検討すべきだと思います.安直な「文化」セールスマンに乗って箱物を作ってしまった自治体関係者も応分の責任を負うべき事はいうまでもありませんが...

追記:(2008/03/25)
当面,滋賀県の財政基金を取り崩して問題をただ先送りしただけに終わったようですが,1人当たり国民所得が先進諸国中16位に転落した現実を考えれば,まったく無責任な問題先送りというほかありません.
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